冬の朝、鮮魚市場のすぐそばにある小さな定食屋の暖簾をくぐると、炊きたてのご飯と出汁の香りが体を包み込んだ。カウンターに座ると、その日の朝に揚がったばかりの真鯵を使った定食が運ばれてきた。
白い器に盛られた鯵の刺身は、透明感のある薄桃色をしている。脂の乗りが良く、身がぷっくりと盛り上がり、光を反射している。生姜の細切りと大葉の香りが、鼻腔をくすぐる。箸で一切れつまむと、身がしっとりと箸に吸い付くような感触。口に入れた瞬間、コリッとした弾力のある食感の後に、トロリと溶けるような脂が舌の上で広がっていく。
鯵特有のほのかな磯の香りと、甘みを帯びた旨味が口の中いっぱいに満ちる。醤油をほんの少し付けると、塩気が鯵の甘みを引き立て、生姜の爽やかな辛みが後味をすっきりとさせる。白いご飯を一口。米粒一つ一つがふっくらと立っていて、噛むたびにモチモチとした弾力と優しい甘みが広がる。
揚げ物の鯵フライは、衣がサックサクの黄金色。箸を入れると、ザクッと音を立てて割れ、中からはジュワッと熱い脂と蒸気が立ち上る。身はふわっふわで、外のカリッカリの衣とのコントラストが絶妙だ。レモンを絞ると、酸味が油のコクを引き締め、最後まで飽きることなく食べられる。
味噌汁は、ほっと体が温まる優しい味わい。昆布と鰹の出汁が効いていて、豆腐と若布がふわふわに浮かんでいる。一口すすると、味噌の芳醇な香りと塩梅の良さが心にしみる。
漬物は大根の浅漬け。シャキシャキとした歯ごたえと、ほんのりとした甘みと酸味のバランスが、鯵の脂っぽさをリセットしてくれる。
この定食屋は父が若い頃に通っていた店で、「鯵はここが一番」と何度も聞かされていた。カウンター越しに大将が手際よく魚をさばく姿を見ながら、父もこうして同じ景色を見ていたのかと思うと、不思議な感覚に包まれる。鯵の旨味の中に、時間を超えた記憶の味が混ざり合っているようだった。
食べ終えた後も、口の中には鯵の余韻が残り、体の芯から温かい。朝の鯵は、冬の海の恵みをそのまま閉じ込めた一皿だった。
#グルメ #食レポ #和食 #鯵