深夜二時、コンビニからの帰り道。いつもの住宅街を歩いていると、見慣れない路地に気づいた。
この道、あったかな。十年以上この街に住んでいるのに、記憶にない。好奇心に負けて、その路地へ足を踏み入れた。
街灯がひとつもない。スマホの明かりだけが頼りだ。両側に古い木造の家が並んでいる。窓はどれも雨戸が閉まっていて、人の気配がまったくない。
奥へ進むと、小さな神社があった。鳥居も拝殿もなく、ただ古びた祠がぽつんと立っているだけ。祠の前に、コップが置いてある。
水が、なみなみと注がれている。
誰が置いたのだろう。この時間に。
ふと、背後から視線を感じた。振り返る。誰もいない。でも確かに、誰かがこちらを見ている。そう確信できるほど濃密な気配。
もう一度祠に目を向けると、コップの水が揺れていた。地震ではない。水面に、何かが映っている。
見てはいけない。
本能がそう叫んだ。でも目は、勝手に水面を覗き込んでいた。
そこに映っていたのは――私の顔だった。ただし、口が耳まで裂けて、笑っている。いや、笑っているのではない。泣いているのだ。無音で、必死に何かを訴えるように。
水面の私が、ゆっくりと口を開いた。
「まだ、帰れない」
声は聞こえなかったはずなのに、その言葉が脳に直接響いた。
気がつくと、私は元の大通りに立っていた。コンビニの袋を握りしめて。時計を見る。深夜二時五分。
あの路地を探したが、もう見つからない。
でも時々、夢に出てくる。あの祠と、水の入ったコップ。そして水面に映る、泣き笑いの私。
いつか、あの路地にまた迷い込む日が来るのだろうか。それとも、私はもう――
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