朝の通勤路を少しだけ変えてみた。いつもは大通りを真っすぐ駅まで歩くのだけれど、今日は一本裏の商店街を抜けてみることにした。理由は特にない。ただ、同じ景色に飽きたというだけだ。
商店街に入ると、すぐに八百屋の前から大根の土の匂いがした。店先には手書きの値札がぶら下がっていて、「本日のおすすめ 春キャベツ」と書いてある。字が少し震えているのが妙に温かい。その隣のパン屋からはバターの香りが漏れてきて、朝食を軽くしすぎたことを後悔した。
ふと、角を曲がったところで迷った。地図アプリを開こうとしたが、圏外ではないのに読み込みが遅い。結局、勘で右に曲がったら、見覚えのない公園に出た。小さな児童公園で、ブランコが一つだけ風に揺れていた。誰もいない。完全に道を間違えた。
でも、間違えたおかげで面白いものを見つけた。公園の隅に、誰かが置いていった小さな本棚がある。「ご自由にお持ちください」と書かれた紙が貼ってあった。中を覗くと、古い旅行ガイドブックが何冊か並んでいる。一冊手に取ってみると、2015年のパリのガイドだった。ページをめくると、誰かの手書きのメモが挟まっていた。「エッフェル塔の夜景、本当に綺麗だった」とだけ書いてある。
この人は今、どこにいるんだろう。
そんなことを考えながら本を戻して、もう一度地図を確認した。今度はちゃんと読み込まれた。駅まであと5分。結局、遠回りになったけれど、遅刻はしなかった。
会社に着いてから同僚に「今日、道間違えて公園に迷い込んだ」と話したら、「それ、冒険って言うんだよ」と笑われた。確かに、冒険かもしれない。規模は小さいけれど。
明日はまた同じ道を通ってみようか、それとも別の道を試してみようか。地図に載っていない小さな発見が、案外この街にはまだたくさん隠れているのかもしれない。
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