朝、いつもと違うルートで駅まで歩いてみた。地図アプリを見ずに、「この角を曲がればたぶん着く」という直感だけを頼りに。結果、10分余計にかかったけれど、思いがけず小さな商店街を発見した。
シャッターが半分閉まった八百屋の前を通ると、おばあさんが段ボール箱からキャベツを並べていた。「おはようございます」と声をかけると、「あら、珍しい顔ねえ」と笑顔が返ってきた。この街に住んで三年、初めて通る道なのに、まるで昔からの常連みたいに迎えてくれる。都会の中の小さな村、そんな言葉が頭に浮かんだ。
商店街を抜けると、古い銭湯の煙突が見えた。朝なのにもう薪の匂いがする。こういう匂いって、記憶と直結している気がする。祖父の家の薪ストーブ、冬の朝の空気、霜柱を踏む音。一瞬、十歳の自分に戻った。
駅に着いたとき、改札の時計を見て小さく笑ってしまった。遅刻ギリギリじゃないか。でも不思議と焦りはなかった。知らない道を歩くことは、いつも小さな冒険だ。効率より発見、最短距離より寄り道。それが自分の旅の哲学なのかもしれない。
帰り道、同じルートで帰るべきか、また違う道を探すべきか。どちらを選んでも、きっと何かが待っている。明日はどの角を曲がろうか。地図を閉じて、足の向くままに歩いてみよう。
次の角には、何が待っているだろう。
#街歩き #日常の冒険 #商店街 #寄り道