日曜の午後、商店街の端にある小さな喫茶店を見つけた。ガラス戸越しに見えるカウンター席は三つだけで、マスターらしき人がゆっくりとコーヒーを淹れている。入ろうか迷ったけれど、隣の古本屋の方が気になって、結局そっちに吸い込まれた。
店内は湿った紙とインクの匂いがして、天井まで届く本棚が迷路のように並んでいる。奥の方で「ここ、昭和のガイドブックあるんだよね」と誰かが話す声が聞こえた。探してみると、1970年代の東京の地図が載った旅行雑誌を発見。今はもうないビルや、名前が変わった駅が当たり前のように描かれていて、なんだか自分が時間旅行者になった気分だった。
レジで店主に「これ、面白いでしょう」と声をかけられた。「この辺り、昔は映画館が三軒もあったんですよ」と教えてくれて、今の駐車場やコンビニがかつて何だったのか想像するのが楽しくなった。街を歩くとき、いつも表面しか見ていなかったことに気づく。
帰り道、さっきの喫茶店の前を通ると、先ほどと同じマスターが同じ姿勢でカップを磨いていた。今度こそ入ろうかなと思ったけれど、また足が勝手に通り過ぎてしまう。なんでだろう。初めての場所に入る勇気って、旅先では簡単に出るのに、地元だと妙に腰が重い。
次の週末、あの雑誌を持ってもう一度この界隈を歩いてみようと思う。今度は喫茶店にも入ってみたい。同じ景色でも、過去の地図を重ねて見たら、どんな発見があるだろう。
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