水曜日の午後、神保町の古書店街を歩いていたら、不思議な体験をした。目的もなくふらふらと歩くつもりが、気づけば三時間も経っていた。
最初に入った店で、昭和40年代の旅行ガイドブックを見つけた。当時の京都案内には「喫茶店でコーヒー一杯80円」と書いてある。隣にいた年配の男性が「この頃はね、学生でも毎日喫茶店に行けたんだよ」と話しかけてきた。その人は、若い頃に使っていたという手書きの旅行メモを見せてくれた。几帳面な字で、訪れた寺の名前と拝観料が記録されている。
次の店では、店主が「探してる本、ある?」と聞いてきた。「いえ、見てるだけです」と答えると、「それが一番いい」と笑った。そういえば最近、目的をはっきり決めて歩くことばかりしていた気がする。効率を求めすぎて、偶然の出会いを避けていたのかもしれない。
三軒目の店の奥で、1960年代のヨーロッパ鉄道時刻表を発見した。ページを開くと、かすかにタバコとインクの匂いがした。誰かがこれを持って、実際に旅をしたのだろうか。スマホで検索すれば一瞬で分かる情報を、当時の人たちは分厚い本を持ち歩いて調べていた。不便だけど、なんだかロマンチックだ。
帰り道、靴底の減り方が左右で違うことに気づいた。どうやら左足に体重をかけて歩く癖があるらしい。こういう小さな発見も、ゆっくり歩かないと気づかない。
来週は、また違う街を目的なく歩いてみようか。地図アプリを開かずに、道に迷ってみるのもいいかもしれない。
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