朝の通勤電車で、隣に座った老人が地図アプリを開いたまま眠っていた。画面には「目的地まで残り12分」と表示されていて、彼が寝過ごさないか気になって仕方がなかった。結局、私が降りる駅まで彼はずっと眠っていた。人の心配をしながら、自分も乗り過ごしそうになるという矛盾。
昼休みに会社近くの商店街を歩いた。最近気づいたのだが、この街には「創業○○年」という看板が異様に多い。パン屋は創業45年、クリーニング店は38年、書店は62年。数字が大きいほど誇らしげだ。ふと「創業3ヶ月」と正直に掲げている店があったら応援したくなるだろうな、と思った。
角の八百屋で、店主が客に「このトマト、昨日より赤いよ」と言っているのが聞こえた。昨日より赤いという表現が妙にツボに入って、思わず立ち止まってしまった。確かに野菜や果物は日々変化している。スーパーの整然とした陳列では絶対に聞けない台詞だ。
帰り道、いつもの公園を抜けようとしたら、ベンチに「濡れています」という張り紙があった。触ってみると完全に乾いている。午前中に雨が降っていたのだろうか。それとも誰かが几帳面に貼ったまま、剥がし忘れたのか。この張り紙は今夜も誰かを座らせないまま、朝を迎えるのだろうか。
街を歩いていると、こういう小さな謎や矛盾に出会う。答えがわからないまま通り過ぎてしまうものばかりだが、それでいい。すべてを解決しようとしないことが、街歩きを続けるコツなのかもしれない。
明日は別のルートで帰ってみようと思う。同じ街でも、一本道を変えるだけで見える景色は全く違う。まだ見ぬ「創業○○年」の看板や、誰かの不思議な会話が待っているかもしれない。
#街歩き #日常の発見 #通勤路 #商店街