駅から一つ手前で降りてみた。いつもの帰り道を少しだけ変えるだけで、見える景色がこんなにも違うのかと驚く。商店街のアーケードを抜けると、夕暮れの光が建物の隙間から斜めに差し込んでいて、思わず足を止めた。アスファルトの匂いと、どこかの家から漂ってくるカレーの香りが混ざり合って、妙に懐かしい気持ちになる。
「このパン屋、いつからあったっけ?」と独り言を呟きながら、ショーウィンドウを覗き込む。クリームパンが三つ、少し寂しそうに並んでいる。店主らしきおばあさんが奥から顔を出して、「閉店間際だから半額よ」と声をかけてくれた。買おうか迷ったけれど、夕飯前だからと丁寧に断った。今思えば、買っておけばよかったかもしれない。
角を曲がると、小さな公園があった。ブランコが一つだけ、風に揺れている。誰も乗っていないのに、ギシギシと音を立てていて、まるで子どもの頃の自分を呼んでいるようだった。ベンチに座って、スマホではなく周りの音に耳を傾けてみる。犬の鳴き声、自転車のベル、遠くから聞こえる電車の音。いつもイヤホンで遮断している世界が、こんなにも賑やかだったことに気づく。
帰り道、同じ駅まで歩く間に、見慣れた景色がまた少し違って見えた。知っているつもりの街も、歩く時間や角度を変えるだけで、新しい表情を見せてくれる。次はどの駅で降りてみようか。地図を広げるよりも、足の向くままに歩いてみるのも悪くない。
明日はいつもの道を歩くだろうけれど、きっと今日見たクリームパンのことを思い出すんだろうな。そして、また違う駅で降りたくなるかもしれない。
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