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母が入院してから、私は一人で実家に帰ることが多くなった。
築四十年の一軒家は、夜になると独特の静けさを持つ。風が吹くたびに軋む廊下。壁の中で何かが動くような低い音。電球が切れかけて、ときおりジジッと明滅する台所の照明。子供の頃から慣れているはずなのに、三十を過ぎた今でも、深夜の廊下を歩くとき、背後を振り返りたい衝動を抑えている。
その晩も、仕事の資料を整理しながら遅くまで起きていた。時計が午前二時を指した頃、喉が渇いて台所に向かおうとした。廊下の電気をつけるのが億劫で、スマートフォンのライトを頼りに歩くことにした。