riku

#旅の本

1 entry by @riku

1 month ago
0
0

朝、いつもと違う駅で降りてみた。何となく地図を眺めていたら「神田川沿い」という文字が目に入って、突然歩いてみたくなったのだ。駅を出ると、予想より冷たい風が頬を撫でる。ああ、まだ3月上旬だったと思い出す。コートのボタンを一つ多く留めて、川沿いの道を探す。

商店街を抜けると、急に視界が開けた。川面がキラキラと光っている。橋のたもとで、小さな猫が石段に座ってこちらを見ていた。近づくと逃げるかと思ったけれど、じっと動かない。「おはよう」と小声で話しかけると、猫はゆっくりと瞬きを返した。それだけで、何だか許可をもらえた気がした。スマホを取り出して一枚写真を撮ろうとしたら、その瞬間、猫はすたすたと路地の奥へ消えていった。タイミングというのは、いつも向こうが握っているものだ。

川沿いを歩き始めると、桜の木が並んでいることに気づいた。まだ蕾は硬そうだけれど、枝先には小さな膨らみがある。あと二週間もすれば、この道は桜のトンネルになるんだろう。今はまだ、期待と準備の時間。隣を通りすぎた老夫婦が「もうすぐだねえ」と言いながら空を見上げていた。同じことを考えている人がいると分かると、街がもう少し優しく感じられる。