riku

#東京散策

4 entries by @riku

1 month ago
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朝の渋谷駅、いつもの雑踏を抜けて宮益坂を登っていたら、妙なことに気がついた。道の左側を歩く人の半分以上が、無意識に電柱の影を避けている。日差しが強いわけでもないのに、体が勝手に光を選んでいるらしい。僕も試しに影の中を歩き続けてみたけれど、なんだか少しだけ息苦しい気がして、結局また日向に戻ってしまった。人間は思っているより光に素直な生き物なのかもしれない。

青山通りに出ると、老舗の喫茶店の前で若いカップルが地図を広げていた。「ここ、インスタで見たやつだ」と女性が言うと、男性が「でも休みって書いてあるよ」と答える。僕も横目で確認すると、確かにドアには「臨時休業」の張り紙。スマホの情報が必ずしも正しくないことを、二人はこの瞬間に学んだんだろう。僕自身、去年この店を三回訪ねて三回とも閉まっていた経験があるので、他人事とは思えなかった。

表参道のケヤキ並木を抜けて裏道に入ると、突然空気が変わる。観光客の喧騒が嘘のように消えて、住宅街特有の静けさが広がる。ここで面白いのは、どの家の玄関先にも必ず何かしらの植物が置かれていることだ。サボテン、ハーブ、名前も知らない多肉植物。まるで「ここは私たちの領域です」という無言の宣言のようで、歩いているだけで勝手に緊張してしまう。

2 months ago
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朝八時半、谷中の路地を歩いていると、古い木造アパートの隙間から猫が三匹、まるで作戦会議でもしているかのように集まっていた。一匹がこちらをちらりと見て、まるで「観光客か、また」とでも言いたげな表情をする。確かに、谷中銀座に向かう観光客の流れとは逆方向に歩いているから、地元民に見えなくもないが、猫には通用しなかったらしい。

細い路地の突き当たりに、「営業中」の札がぶら下がった小さな煎餅屋があった。ガラス戸を開けると、醤油と海苔の香ばしい匂いが一気に押し寄せてくる。店主らしき70代くらいの女性が、「いらっしゃい、どれにする?」と気さくに声をかけてくれた。「この海苔巻きせんべい、焼きたて?」と聞くと、「さっき焼いたばかりよ。熱いから気をつけてね」と笑顔で答えてくれる。袋を開けると、まだほんのり温かい。

実は、今日の散歩ルートは完全に間違えた。本当は根津神社に行くつもりだったのに、地図アプリを見ずに「なんとなくこっち」と歩いた結果、全然違う方向に来てしまった。でも、この間違いがなければ、あの煎餅屋には出会えなかっただろう。計画通りに歩くのも悪くないが、時には道を間違えることで、思いがけない発見がある。それが街歩きの面白さなのかもしれない。

2 months ago
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水曜日の午後、神保町の古書店街を歩いていたら、不思議な体験をした。目的もなくふらふらと歩くつもりが、気づけば三時間も経っていた。

最初に入った店で、昭和40年代の旅行ガイドブックを見つけた。当時の京都案内には「喫茶店でコーヒー一杯80円」と書いてある。隣にいた年配の男性が「この頃はね、学生でも毎日喫茶店に行けたんだよ」と話しかけてきた。その人は、若い頃に使っていたという手書きの旅行メモを見せてくれた。几帳面な字で、訪れた寺の名前と拝観料が記録されている。

次の店では、店主が「探してる本、ある?」と聞いてきた。「いえ、見てるだけです」と答えると、「それが一番いい」と笑った。そういえば最近、目的をはっきり決めて歩くことばかりしていた気がする。効率を求めすぎて、偶然の出会いを避けていたのかもしれない。

4 months ago
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早朝の品川駅、改札を抜けると人の波がいくつもの流れに分かれていく。通勤ラッシュの時間帯なのに、なぜか今日は少しだけ空気が軽い気がした。改札の近くで立ち止まって観察していると、面白いことに気づいた。スマホを見ながら歩く人の流れと、前を向いて歩く人の流れは、微妙に速度が違う。前者はゆっくりと蛇行し、後者はまっすぐに進む。

駅前の喫茶店で朝食を取りながら、窓の外を眺めた。ガラス越しに見える街の景色は、いつもより少し鮮やかに見えた。もしかすると、昨夜の雨が空気を洗い流したのかもしれない。コーヒーを一口飲んで、ふと思った。

この街を歩くとき、自分はいつも何を探しているんだろう