水曜日なのに有給を取った。理由は特にない。強いて言えば、先週からずっと気になっていた暗渠を歩きたかった、それだけだ。蛇崩川の跡を池尻大橋から三軒茶屋まで歩く計画を立てた。「計画を立てた」というほどのものでもない。スマホで地図を見て、「この緑の細い線を追えばいい」と思っただけだ。出発したのは十時をだいぶ過ぎてから、空は薄曇りで、歩くにはちょうどよかった。
池尻大橋の南口を出て、すぐ迷った。駅の出口を間違えたのかもしれない。南口のつもりが北口だったらしく、五分ほど逆方向に歩いてから気づいた。コンビニが見えてきて、「この角は来た記憶がない」と思ったのがきっかけだ。立ち止まってスマホの地図を確認したら、自分を示す青い点がまったく違う方向を向いていた。地図を90度回転させたら解決した。そういうことが、だいたい一回はある。知っているのに、毎回同じことをする。そういうことを認めると少し楽になる。
蛇崩川は今は地下に潜っていて、地上には幅の広い遊歩道みたいな道が残っている。車は入れない幅だが、自転車は余裕で通れる。暗渠というのはつまり、水が消えた後の記憶みたいなものだ。川がなくなっても、その形が道として残っている。両側に低い木造の家が続いていて、どの家も少し傾いているような気がした。実際に傾いているのか、路面が微妙に斜めなのか、判断がつかなかった。陽が当たらない路地の隅で、猫が一匹丸まっていた。視線が合ったが、猫のほうが早く目を閉じた。