riku

#散歩日記

3 entries by @riku

1 month ago
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今日は亀戸から曳舟まで、東武亀戸線の線路に沿って歩くつもりだった。「沿いに」と書いたが実際には亀戸駅の改札を出た瞬間、南口のつもりが北口に出ていたことに気づいて引き返し、さらに駅前のロータリーで地図を開いて確認したところ、線路の東側を歩くべきところを西に向かって歩き出していた。亀戸を出発してから五分も経たないうちに二回間違えたことになる。方向感覚というものが、どうも自分には標準装備されていないらしい。

気を取り直して線路の南側を歩き始めた。古い住宅と小さな工場が入り交じった一帯で、どこかから断続的に金属を叩く音が聞こえてきた。細い路地を進んでいくと、水色のシャッターが降りた鉄工所の前で足が止まった。水色といっても長年の紫外線で色が飛んだような感じで、シャッターの端を見ると過去の塗装が三層ほど重なっていることが分かった。一番外の水色の下に白、その下にまた別の何かがある。誰かが「水色にしよう」と決めた日があったはずで、その人が今もここで仕事をしているのか、もうこの場所を離れたのか、知る方法がない。べつに知らなくていいのだけれど、そのまま通り過ぎるのも少し惜しい気がして、しばらくそこに立っていた。町工場のシャッターを眺めながら立っている人間は、傍から見るとどういう存在に映るのだろうか。

北十間川を渡ったあたりで、気がつけば正午をとっくに過ぎていた。商店街の入り口のアーチをくぐると、思っていたより短くてシャッターが目立つ通りが続いた。入り口側は建物の影に入って薄暗く、出口側には午後の陽光が差し込んでいて、開いている店は出口に近いほうに固まっているようだった。惣菜屋と靴修理の店と、名前を見ても業種が分からない店が一軒あった。その前で少し立ち止まったが、入る勇気はなかった。商店街というのはどこもそういう非対称な構造になっているのか、ここだけ偶然そうなのか、確かめることもなく通り過ぎてしまった。

2 months ago
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五月の第三金曜日、菊川駅の南口から出て、地図を確認せずにそのまま歩き始めた。五分ほど進んだところで、向かいから来た配達員の自転車と目が合い、自分が完全に逆方向へ進んでいたことに気づいた。スマホの地図は最初から正しかった。私の頭の中の地図が、いつものように百八十度ずれていた。これはもう体質のようなものだと思っているので、特に落ち込まずに立ち止まってくるりと向きを変え、また歩き始めた。五分のロスだが、今日は急ぐ用事が何もない。

今日の目標は、菊川から旧水路の跡らしい筋をたどって錦糸町まで抜けること。地図の上では七キロ弱くらいで、気が向けば九キロか十キロになるだろうと思っていた。最初から正確な距離を測ると歩く前から疲れた気分になるので、だいたいでいい。天気は薄曇りで、日差しが強くなく、五月にしては歩くのにちょうどいい日だった。小脇に古い鞄を持って、ノートと鉛筆だけを入れて出かけた。

住宅街を抜けてしばらくすると、突然道幅が変わった。コンクリートで舗装された細い道が、右にも左にも折れずにまっすぐ伸びている。昔、水路だったらしい筋がそのまま歩道になったやつで、幅は二メートルちょっとしかない。自転車と歩行者がすれ違うと、どちらかが少し体を斜めにしないといけない程度の狭さだ。こういう暗渠の道は、なんとなくずっと歩き続けたくなる性質がある。水の記憶が地面に残っているとか、そういうことを言いたくなるが、たぶん実際には「先がどこへ続くのか」という単純な好奇心だと思う。水路が蓋をされた経緯を調べる習慣が私にはないので、歩きながら想像するだけで終わる。でも、それはそれで悪くない。

2 months ago
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荻窪の南口から出るつもりが、なぜか北口に立っていた。改札を抜けた瞬間に「あ、逆だ」と気づいたが、もう人の流れに乗ってしまっていて、引き返すタイミングを失った。仕方ないので北口から南下することにした。地図を確認したら、そのほうがむしろ善福寺川に近かったので、結果的にはよかったかもしれない。たぶん。地図の向きが合っているかどうかは、最後まで若干自信がなかった。

川沿いの遊歩道に入ると、祝日の午前中らしく親子連れと犬と自転車が入り乱れていた。鯉のぼりを出している家が一軒あって、小さいほうが完全に力尽きてぐったりしていた。風がほとんどない日だったので、大きいほうも半分やる気をなくしたように、ほぼ垂直に垂れ下がっていた。4月の末だからそろそろ片付ける時期のはずで、もしかしたら今日が最終出勤日だったのかもしれない。お疲れさまでした、と思いながら通り過ぎた。

しばらく歩くと、支流らしき細い水路の跡が住宅の間を走っているのに気がついた。今は舗装されて道になっているが、微妙なカーブの付き方と、両側の塀の基礎がわずかに内側へ向いているあたりで、昔ここに水があったことがなんとなくわかる。暗渠というやつだ。名前もない。地図にも載っていない。でも確かにそこにあった跡だけが残っている。こういう痕跡を見つけると、なぜか少しほっとする。街が何かをまだ覚えているみたいで。小さいノートにカーブの形だけ走り書きしたが、帰って見返したら何の形かまったくわからなかった。