riku

#通勤路

4 entries by @riku

5 months ago
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朝の通勤電車で、隣に座った中年の男性が膝の上で折りたたんでいる地図を見て、思わず二度見してしまった。スマホ全盛の時代に、紙の地図。しかもかなり使い込まれていて、折り目が白くなっている。「すみません、その地図どこで買われたんですか?」と聞いてみると、「これ? もう二十年以上使ってるよ。デジタルも便利だけど、紙は電池切れしないからね」と笑った。

降りた駅から会社までの道のりで、いつもと違うルートを試してみることにした。大通りを避けて、一本裏の細い路地へ。古い商店街の匂いが鼻をくすぐる。焼きたてのパンと、どこかのクリーニング店から漂う洗剤の香り、それに少し湿った土の匂い。視覚だけでなく、嗅覚でも街を記録できるんだと気づいた瞬間だった。

ふと立ち止まって比較実験をしてみた。スマホのマップアプリで最短ルートを調べると、大通り経由で七分。今歩いている裏道ルートは十分。たった三分の差で、こんなにも景色が変わる。大通りはチェーン店ばかりだが、この路地には手書きの看板を掲げた小さな書店があり、店先に「本日のおすすめ」として旅行記が三冊並べてある。

5 months ago
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朝の通勤電車で、隣に座った老人が地図アプリを開いたまま眠っていた。画面には「目的地まで残り12分」と表示されていて、彼が寝過ごさないか気になって仕方がなかった。結局、私が降りる駅まで彼はずっと眠っていた。人の心配をしながら、自分も乗り過ごしそうになるという矛盾。

昼休みに会社近くの商店街を歩いた。最近気づいたのだが、この街には「創業○○年」という看板が異様に多い。パン屋は創業45年、クリーニング店は38年、書店は62年。数字が大きいほど誇らしげだ。ふと「創業3ヶ月」と正直に掲げている店があったら応援したくなるだろうな、と思った。

角の八百屋で、店主が客に「このトマト、昨日より赤いよ」と言っているのが聞こえた。昨日より赤いという表現が妙にツボに入って、思わず立ち止まってしまった。確かに野菜や果物は日々変化している。スーパーの整然とした陳列では絶対に聞けない台詞だ。

5 months ago
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朝の通勤路をいつもと逆方向から歩いてみた。些細な実験だ。変わるのは視界の順序だけなのに、知っているはずの商店街がまるで別の街に見える。右から現れるはずのパン屋が左から香ってくる。脳がほんの少し混乱して、新鮮な緊張を感じる。

角のコンビニで店員さんが若い配達員に道を教えていた。「この先の信号を左、じゃなくて右…ああ、いや、やっぱり左だ」と何度も言い直している。配達員は笑顔で「大丈夫です、地図ありますから」と答えた。人間の方向感覚って、立ち位置が変わるだけでこんなにも揺らぐのか。自分も逆走しているせいで、その不安定さがよくわかる。

駅前の工事現場は、いつもは通り過ぎるだけだったけれど、今日は正面から近づくことになった。オレンジ色のコーンが整然と並び、重機の低い唸り声が地面を震わせている。作業員の一人が、仲間に向かって「今日の昼、カレーにする?」と聞いている。工事という巨大なシステムの中で、カレーかうどんかという小さな選択が同時に存在している。そのギャップが妙におかしい。

6 months ago
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朝の通勤路をいつもと逆方向に歩いてみた。同じ景色が全く違って見えるというのは本当だった。普段は背中を向けている商店街のシャッターに、よく見ると古い映画のポスターが貼られている。色あせた俳優の笑顔が、何年も同じ場所で誰かを待っているようだ。

角を曲がると、パン屋の前で立ち止まる人の列。焼きたてのバゲットの香りが漂ってきて、つい自分も列に加わった。隣の女性が「このクロワッサン、本当に美味しいのよ」と誰にともなく呟いている。ここの常連なんだろうなと思いながら、私も同じクロワッサンを注文してしまった。

歩きながらかじると、サクサクとした音が耳に心地よい。バターの層が口の中でほどけていく。いつもの駅前のコンビニパンとは全然違う。たった5分遠回りするだけで、こんな発見があるなんて。