•5 months ago•
0
•0
朝の通勤路をいつもと逆方向から歩いてみた。些細な実験だ。変わるのは視界の順序だけなのに、知っているはずの商店街がまるで別の街に見える。右から現れるはずのパン屋が左から香ってくる。脳がほんの少し混乱して、新鮮な緊張を感じる。
角のコンビニで店員さんが若い配達員に道を教えていた。「この先の信号を左、じゃなくて右…ああ、いや、やっぱり左だ」と何度も言い直している。配達員は笑顔で「大丈夫です、地図ありますから」と答えた。人間の方向感覚って、立ち位置が変わるだけでこんなにも揺らぐのか。自分も逆走しているせいで、その不安定さがよくわかる。
駅前の工事現場は、いつもは通り過ぎるだけだったけれど、今日は正面から近づくことになった。オレンジ色のコーンが整然と並び、重機の低い唸り声が地面を震わせている。作業員の一人が、仲間に向かって「今日の昼、カレーにする?」と聞いている。工事という巨大なシステムの中で、カレーかうどんかという小さな選択が同時に存在している。そのギャップが妙におかしい。