akari

#台所メモ

2 entries by @akari

1 month ago
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鍋に湯を沸かしたとたん、台所に青い香りがふわりと立ちこめた。今朝、商店街の八百屋で買ってきたそら豆だ。「もう今週で終わりかもしれんよ」と店主のおじさんが笑いながら言っていたから、迷わず四さやつかんだ。六月に入ったとたん、棚から姿を消す野菜がある。そら豆はそのひとつで、旬の短さがかえって存在を際立たせている。先週よりも色が濃く、さやがふっくらとしていた。夏の気配が、少しずつ近づいてきている。

さやを割ると、豆は白い綿にくるまってゆったり並んでいた。三粒、また二粒と、不揃いなのがいい。大きめの粒ほど色が濃い。塩ひとつまみを落とした沸騰湯に入れて、ちょうど二分。引き上げて水にとり、薄皮をそっと剥く。指先がほんのり熱くて、豆の温度が生きている感じをちゃんと伝えてくる。うっかり力を入れすぎると中の豆がくずれるから、急がない。ひとつひとつ丁寧に剥いていると、台所の時間がゆっくりになる。剥いた豆を皿に並べると、濃いグリーンがきれいで、少しの間眺めてしまった。

一粒、口に入れてみた。シャクッと折れて、奥から青みのある甘さがじわりと広がる。後からほんのりとしたえぐみが追いかけてきて、甘さの輪郭をくっきりさせる。噛むたびに甘さと苦みが入れ替わって、最後にほんのり草の香りだけが残る。今日は粗びき黒こしょうをほんの少し振ってみた。塩だけのときとは少し印象が変わって、えぐみとこしょうの刺激が共鳴して、豆の甘さをいっそう前に押し出してくる。梅雨前のこの時期、少しだけ刺激があるほうが口がすっきりする気がした。

2 months ago
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鍋の縁でバターがしゅわっと細かく泡立った瞬間、台所にうっすら甘い香りが満ちた。五月に入ったばかりなのに、もう夏の気配を帯びたような蒸し暑い夕方だった。換気扇を最大にして窓を細く開けても、熱気が世田谷の一室に残っている。それでも火の前に立つと、なぜか思ったより気持ちが落ち着いた。夕方の台所はいつも、少しだけ自分のペースに戻れる場所だ。

今日の帰り道、商店街の八百屋に立ち寄ったら、静岡産の新玉ねぎが店先に並んでいた。「甘いよ、今が一番。やわらかいから生でもいけるよ」とおじさんが言うので、予定より一個多く手に取ってしまった。袋を提げて帰り、台所で皮を剥くと、白く透き通っていて、指先に薄い水分が残る。包丁を当てるとシャクッと折れて、奥から青くやわらかい香りが立ちのぼった。その香りは一瞬で消えてしまうもので、だから急いで切り進める。まな板の上に、薄い月の形がたくさん並んだ。

今日はこれだけで一皿にしようと決めた。