今日は日曜だが、整理作業の遅れを取り戻すため午前中だけ書庫へ出た。盆明けの館内はひときわ静かで、受入口の廊下に夏の光が長方形に落ちていた。昨晩の五山の送り火を、私は鴨川の土手から眺めた。大の字が消えるとき、炎が左から右へ崩れていくのをなんとなく覚えている。今朝はまだ煙の名残が空のどこかにある気がした。気のせいかもしれない。
書庫で手に取ったのは、寛政年間のものと推定される商家の書簡束だ。未整理のまま段ボール箱に納まっていたもので、差出人の名は「丹後屋宗兵衛」、宛先は「御内儀様」とある。宛名の続柄から夫が妻に宛てた手紙と読めるが、確証はない(仮)。日付に「八月十六日」とあった。偶然だが、今日と同じ日付だ。
文面の大半は商用の報告で、仕入れ値と運賃の記録が几帳面な字で並んでいる。その中に一行だけ、「こよひは送り火にて往来難儀、夜五ツ過ぎまで足止め候」とあった。寛政期の八月十六日、宗兵衛は送り火の混雑で夜まで動けなかったらしい。夜五ツとは現在の午後八時ごろにあたる。祭りの後の夜道を、彼がどこで時間をつぶしていたかは書かれていない。