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kaori
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March 2026

19 entries

2Monday

深夜二時、コンビニの自動ドアが開く音がした。

私はレジの奥で棚卸しをしていた。客は誰もいないはずだった。振り向くと、入口には誰もいない。ドアはゆっくりと閉まっていく。

センサーの誤作動だろうと思った。

また作業に戻ろうとした時、冷蔵庫のドアが開く音がした。誰かがドリンクを選んでいるような、ゆっくりとした動き。でも、鏡に映る店内には私以外の姿はない。

足音が聞こえ始めた。

ぺたり、ぺたり。

濡れた足で歩くような音。でもその足音は、床に足跡を残さない。私は動けなくなっていた。レジの裏で、商品棚に背を向けたまま。

足音が近づいてくる。通路を一つ、また一つ。

私の背後で止まった。

呼吸の音が聞こえる。いや、違う。これは呼吸ではない。水が漏れる音だ。じわじわと、服から、髪から、水が滴り落ちる音。

振り向いてはいけない。

そう思った。でも、レジのモニターに映る防犯カメラの映像が目に入った。

私の後ろには、誰もいなかった。

でも、床には水溜まりが広がっていた。そして、その水の表面に、何かが映っていた。

長い髪。白い顔。口を大きく開けた—

モニターが消えた。店内の照明が全て消えた。

真っ暗闇の中で、背中に冷たい水が触れるのを感じた。そして、耳元で囁く声。

「一緒に、帰ろう」

翌朝、店長が私を見つけた時、私は床に倒れていた。周りには大量の水が溜まっていて、監視カメラには何も映っていなかった。

ただ一つ、説明できないことがあった。

私の髪が、ずぶ濡れだったのだ。店内には水源など、どこにもないのに。

そして今でも、夜中に水の音を聞くと、あの声が蘇る。あの冷たい手の感触が、背中に残っている。

誰かが、まだ私を呼んでいる。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #深夜

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4Wednesday

三週間前から、夜中の三時に必ず目が覚める。

最初は気のせいだと思っていた。でも毎晩、ちょうど三時になると何かに引っ張られるように意識が浮上する。真っ暗な部屋の中で、私は天井を見つめる。

そして、音が聞こえる。

ぽた、ぽた、ぽた。

水滴が落ちる音。規則正しく、どこかから響いてくる。台所の蛇口を確認した。締まっている。風呂場も、洗面所も、全て問題ない。それでも音は止まらない。

五日目、私は音の方向を突き止めようとした。廊下に出ると、音は遠ざかる。部屋に戻ると、また聞こえる。まるで私を避けるように、音は移動していく。

一週間目、気づいてしまった。音は壁の中から聞こえている。

大家に相談しても、「配管は問題ありません」と言われるだけだった。でも毎晩三時、私は目を覚まし、壁の向こうから聞こえる水音に耳を澄ませる。

昨夜、新しいことに気づいた。

水音の間隔が、だんだん速くなっている。最初は五秒おきだった。今は三秒おき。まるで何かが近づいてくるように。

そして今夜。二時五十五分に、私は目を覚ました。早すぎる。心臓が跳ねる。デジタル時計の数字が二時五十九分に変わる。

三時になった。

でも、音がしない。

初めて、あの水音が聞こえない夜。安堵するべきなのに、胸が締め付けられる。何かが終わったのではない。何かが、始まろうとしている。

壁が、湿っている。

寝室の壁に手を当てると、冷たい水が滲み出している。壁紙が、ゆっくりと剥がれ始める。

その向こうに、何かがいる。

ずっと待っていた、何かが。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #恐怖

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5Thursday

雨上がりの帰り道、いつも同じ水溜まりがある。商店街の角を曲がったところ、少し窪んだアスファルトに溜まる浅い水。

最初に気づいたのは先週の木曜日だった。

水溜まりを跨ぐとき、何気なく見下ろした。そこに映っているのは曇り空と私の姿。でも、一瞬だけ、私の隣に誰かが立っていた気がした。

振り返っても誰もいない。疲れているのだろうと思った。

翌日も雨が降った。同じ場所に同じ水溜まり。今度は意識して見下ろした。空、街灯、そして私。今度は何もない。やはり気のせいだったのだ。

でも、三歩ほど歩いたところで、背筋に冷たいものが走った。見てはいけなかった。

その日から、水溜まりを避けるようになった。大回りして通る。でも雨の日は水溜まりだらけで、全部を避けることはできない。

今朝、洗面所で顔を洗っていたとき、ふと鏡を見た。水滴が鏡を伝っている。その向こうに映る私の顔。そして、肩越しに、誰かが立っていた。

振り返る。誰もいない。

でも鏡の中では、その人はまだそこにいて、じっとこちらを見ていた。

水が反射するものすべてに、あの人は映り込む。窓ガラス、スマートフォンの画面、コップに注いだ水。いつも私のすぐ後ろに。

誰なのか、何を望んでいるのか、わからない。

ただ一つだけわかるのは、あの人は日に日に近づいているということ。

最初は背後の遠く。次は肩越し。今朝は、手を伸ばせば触れられるほどの距離。

今夜も雨だ。部屋の窓に雨粒が流れている。

その向こうに映る私の姿。そして、もう隣に並んで立っている、あの人の顔。

今度初めて、その表情がはっきりと見えた。

それは私自身の顔だった。ただし、口元だけが違う。不自然なほど大きく、歪んで、笑っていた。

明日、鏡を見たとき、どちらが本物の私なのかわからなくなるような気がする。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #水鏡

6Friday

深夜二時、私は古いアパートの階段を上っていた。三階に住む祖母の部屋へ向かう途中、二階と三階の間の踊り場で足を止めた。

そこに、小さな窓がある。

昼間は気にも留めなかったその窓から、今夜は微かな光が漏れている。月明かりだろうか。近づいてみると、窓の向こうには何もない。ただの壁だ。このアパートの構造上、窓の外側には隣の建物の壁しかないはずだった。

それなのに、光は確かに差し込んでいる。

窓ガラスに顔を近づけた瞬間、向こう側に人影が見えた気がした。いや、人ではない。何かが立っている。

私は後ずさった。階段を駆け上がり、祖母の部屋のドアを叩く。

「ああ、来たのかい」祖母は穏やかに微笑んだ。「あの窓、見ちゃったんだね」

「あの窓……知ってるんですか」

「ええ。昔からあるのよ。でもね、覚えておきなさい。あそこを覗いたら、次は向こうから覗かれる番だからね」

私は黙って頷いた。

それから三日後、自室で本を読んでいると、視界の端に影が動いた。振り返る。窓の外、三階なのに、誰かが立っている。

いや、何かが。

こちらを見ている。じっと。

カーテンを閉めても、その視線は消えない。今もなお、私の背中に張り付いている。

あの踊り場の窓を覗いてしまった夜から、もう一週間が経つ。祖母に電話をかけても、もう繋がらない。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #窓

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7Saturday

深夜二時、私は目を覚ました。喉が渇いていた。

台所へ向かう途中、廊下の窓から外を見ると、隣のマンションの一室に明かりが灯っていた。四階の、いつも暗い部屋だ。

窓際に人影が見えた。長い髪の女性が、じっと動かずこちらを向いている。いや、こちらを見ているのかもしれない。

翌日も、同じ時刻に目が覚めた。またあの部屋に明かりが灯っていた。同じ姿勢で、同じ位置に女性が立っている。昨夜と全く同じ角度で。

三日目。私は目覚まし時計をセットして、意図的に深夜二時に起きた。窓を見る。予想通り、明かりが灯っている。女性もいる。

私は手を振ってみた。

女性は動かなかった。

私は部屋の電気を消してみた。

女性の姿がはっきりと見えた。あまりにもはっきりと。距離があるはずなのに、まるで目の前にいるかのように、彼女の表情まで見えた。

彼女は笑っていなかった。泣いてもいなかった。ただ、口が少しだけ開いていた。

四日目。私は双眼鏡を用意した。深夜二時、明かりが灯る。双眼鏡を覗く。

女性の顔がレンズいっぱいに広がった。目が合った。

その瞬間、気づいた。彼女が立っているのは窓際ではない。窓の外側だった。

ガラスに張り付くように、四階の外壁に、何かが立っていた。

双眼鏡を下ろすと、私の部屋の窓に、濡れた手形がついていた。

内側から。

五日目の深夜二時、私はもう窓を見ない。でも背後で、何かが窓を叩く音がする。

規則的に。

ずっと。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #恐怖

8Sunday

深夜二時、いつものコンビニで缶コーヒーを買った。

レジの店員は見たことのない女性だった。青白い顔、長い黒髪。名札には何も書かれていない。彼女は無言で商品を受け取り、バーコードを通した。ピッという音が妙に遠く聞こえた。

「三百円です」

声が低い。男性のような、老人のような。

釣り銭を受け取る時、彼女の手が氷のように冷たかった。店を出ながら振り返ると、彼女はじっとこちらを見ていた。笑っていなかった。

翌日の深夜、また同じ店に入った。同じ女性がレジにいた。同じ青白い顔、同じ長い黒髪。

「いらっしゃいませ」

今度は声が出なかった。口だけが動いている。

レジに並ぶ。前に客はいない。店内には私と彼女だけ。蛍光灯が微かに震えている。

缶コーヒーを差し出すと、彼女の目が私を捉えた。黒い瞳の奥に、何かがいた。

「毎晩、ありがとうございます」

私は毎晩来ていない。週に一度来るだけだ。

「明日も、お待ちしております」

背筋が凍った。

「明後日も」

彼女の口元が歪んだ。

「ずっと」

私は金を置いて店を飛び出した。

それから二週間、そのコンビニを避けた。別の店で買い物をした。

ある夜、仕事帰りに無意識に足が動いた。気づいた時、あのコンビニの前に立っていた。

ガラス越しに店内が見える。レジに彼女がいた。

彼女は外を見ていた。私を見ていた。

そしてゆっくりと手招きをした。

私の足は勝手に動き出した。自動ドアが開く。

「お帰りなさいませ」

彼女がそう言った気がした。

気がついたら、私はレジの中にいた。青白い蛍光灯の下で、制服を着て、客を待っていた。

外には誰もいない。

深夜二時を過ぎると、ガラスの向こうに人影が見える。

私はその人を、じっと見つめる。

そして、手招きをする。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #深夜

9Monday

あの日、終電を逃した私は、普段使わない地下鉄の出口から地上へ出た。

階段を上がりきると、見慣れない商店街が広がっていた。シャッターが下りた店が並び、街灯が所々で点滅している。スマホの地図アプリを開いたが、なぜか現在地が表示されない。

仕方なく歩き始めると、一軒だけ明かりのついた小さな喫茶店があった。「カフェ・ミズカガミ」という看板。中には客がいないようだったが、ドアには「営業中」の札が掛かっている。

喉が渇いていた私は、中に入った。

店内は古びていたが清潔で、カウンターの奥に白髪の老婦人が立っていた。彼女は無言で水の入ったグラスを差し出した。冷たい水は美味しかった。

「ここ、どこですか」と尋ねると、老婦人は黙って窓の外を指差した。

窓の向こうに、さっきまでいた商店街が見えた。しかし何かが違う。街灯が全て消えている。そして、人影が一つ、二つ、三つ。同じ場所を行ったり来たりしている。

よく見ると、その影の一つは私だった。

背を向けたまま、老婦人が言った。

「もう一杯、いかがですか」

私の前のグラスは、いつの間にか空になっていた。そして気づいた。テーブルの上に、濡れた足跡が続いている。店の奥へ、奥へと。

「大丈夫です」

そう言って店を出ようとドアに向かうと、ガラスに映った自分の姿が見えた。

私の服は、びっしょりと濡れていた。

気づけば、商店街に人影はなくなっていた。スマホの時計を見ると、午前三時を指していた。しかし、入店したのは午前一時のはずだ。地図アプリを開くと、今度は現在地が表示された。

自宅から徒歩五分の場所。

振り返ると、喫茶店はもうなかった。そこにあったのは、古い井戸の跡を示す石碑だけ。

碑文には、こう刻まれていた。

「昭和四十二年 水鏡井戸跡 溺死者三名 合掌」

私の靴の中で、何かがちゃぷんと音を立てた。

#怪談 #都市伝説 #ホラー #境界線

12Thursday

最近、アパートの四階に引っ越してきた。古い建物だが、家賃が安く、駅からも近い。

初めて気づいたのは、三日目の夜だった。

廊下を歩いていると、隣の部屋——402号室——のドアの隙間から、微かに光が漏れている。ドアノブのすぐ下、ほんの数センチの隙間。誰かが中にいるのだろうと思い、気にせず自分の部屋に入った。

翌日の夜も、同じ隙間から光が漏れていた。その翌日も。

一週間が過ぎた頃、管理人に尋ねてみた。

「402号室には、どなたがお住まいですか」

管理人は不思議そうな顔をした。

「402? あそこは三年前から空室ですよ」

鍵の確認もした。確かに入居者はいない。では、あの光は何だったのか。

その夜、私は廊下で待った。

午後十時を過ぎた頃、402号室のドアの隙間から、またあの光が漏れ始めた。ゆっくりと、まるで誰かがドアの向こうで蝋燭を持って近づいてくるように。

私は膝をついて、隙間から中を覗き込んだ。

畳の部屋。古い蛍光灯。そして——

部屋の奥に、誰かが座っている。

背中だけが見える。長い黒髪。白い寝間着。動かない。

私が息を呑んだ瞬間、その人物がゆっくりと振り返り始めた。

私は立ち上がり、自分の部屋に駆け込んだ。鍵をかけ、息を整える。

翌朝、もう一度402号室の前に立った。ドアノブを掴む。鍵はかかっているはずだが——

ドアが開いた。

中は空っぽだった。畳も、蛍光灯も、何もない。コンクリートの床と、剥がれかけた壁紙だけ。

でも、部屋の奥に、小さな水たまりがあった。

誰かが座っていた場所に。

その水たまりは、まだ少し温かかった。

私はそれ以来、夜に廊下を歩かないようにしている。でも時々、ドアの向こうから、水の滴る音が聞こえる。

ぽた、ぽた、と。

まるで誰かが、ずっと待っているように。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #水の恐怖

14Saturday

深夜、アパートの水道から聞こえる音で目が覚めた。

ぽた、ぽた、ぽた。

規則正しい滴りの音。蛇口はしっかり閉めたはずなのに。仕方なく起き上がり、台所へ向かう。月明かりだけが頼りだった。

蛇口は完全に閉まっていた。でも音は止まない。

ぽた、ぽた、ぽた。

よく聞くと、音は流し台からではなく、上から聞こえてくる。天井を見上げると、古いシミが広がっていた。前からあっただろうか。記憶にない。

翌日、大家さんに相談した。「上の部屋は空き部屋ですよ」と言われた。半年以上、誰も住んでいないらしい。水道も止めてあるという。

それでも夜になると、あの音が聞こえる。

ぽた、ぽた、ぽた。

三日目の夜、我慢できなくなって上の階へ行った。ドアの前に立つと、隙間から水が染み出していた。黒ずんだ水。異臭がする。

ドアノブに手をかけようとして、やめた。

何か——何かが中にいる。水の音に混じって、別の音が聞こえた気がした。呼吸音。いや、もっと湿った、ずるずると這いずる音。

私は階段を駆け下りた。

翌朝、大家さんが合鍵で上の部屋を開けた。部屋は乾いていて、何の異常もなかった。水道の痕跡もない。「気のせいでしょう」と笑われた。

でも今夜も、音は聞こえている。

ぽた、ぽた、ぽた。

そして昨夜から、天井のシミが少しずつ、大きくなっている。中心部に、何かの形が浮かび上がってきた。人の顔のような、手のような——。

私はもう、上を見ないようにしている。見てはいけない。そう直感が告げている。

だが音は止まない。今夜はもっと近くで聞こえる。まるで、天井の真裏に何かが張り付いているかのように。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #水

15Sunday

深夜の補習が終わったのは十時を過ぎていた。校舎に残っているのは私だけのはずだった。

三階の教室を出て、階段を降りようとした時、下の階から足音が聞こえた。

誰かいる。

警備員かもしれない。そう思って立ち止まると、足音も止まった。

私が歩き出すと、また聞こえる。私と同じリズム。同じ速さ。まるで鏡のように。

二階に降りた。廊下は静まり返っている。蛍光灯が一つ、規則的に明滅を繰り返していた。

足音は、今度は上から聞こえた。

さっきまで私がいた三階から。

おかしい。誰も追い抜いていない。すれ違ってもいない。

階段を見上げると、踊り場の向こうに人影が見えた。女子生徒の制服。でも顔は暗くて見えない。

「誰ですか」

返事はない。ただ、影が一歩、こちらへ近づいた。

私は走った。一階まで駆け降りて、昇降口へ向かった。息が切れる。心臓が早鐘を打つ。

背後から、また足音。

今度は走っている。私と同じ速さで。

靴箱のガラスに、一瞬だけ映った。

後ろを走る「何か」の姿が。

それは私と同じ顔をしていた。ただ一つ違うのは、その表情だった。

笑っていた。

外に出ると、足音は止んだ。振り返っても、誰もいない。ガラス戸の向こうは暗い廊下だけ。

翌朝、昇降口で先生に呼び止められた。

「昨日、校舎に残ってたのは君だけだったよね」

「はい」

「じゃあ、これは誰が置いたんだろう」

先生が指さした靴箱を見て、息が止まった。

私の靴箱。その隣の、もう使われていない靴箱。

そこに、私と同じ上履きが揃えて置かれていた。

内側に名前を確認しようとした時、先生が言った。

「もう誰も触らない方がいい。三年前、ここで亡くなった生徒の靴箱だから」

私は思い出せなかった。

昨日、上履きを二足持って帰ったかどうか。

#怪談 #ホラー #学校の七不思議 #恐怖

16Monday

深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く輝いていた。

バイト帰りの私は、いつものように角を曲がり、公園の脇を通り抜ける。誰もいない滑り台が、街灯の下で影を落としている。

その時、公園の奥にある古い公衆トイレから、かすかな光が漏れているのに気づいた。

こんな時間に、誰が。

好奇心に負けて、私は近づいていった。トイレの扉は半開きで、中から青白い光が揺れている。ろうそくの光だ。

「もしもし……」

声をかけても、返事はない。

扉を押し開けると、個室の一つが開いていた。中には誰もいない。ただ、床に五本のろうそくが円形に並べられ、その中心に、古びた鏡が置かれていた。

鏡には何も映っていない。天井も、壁も、私自身も。

ただ、真っ暗な闇だけが、鏡の中に広がっていた。

その闇の奥で、何かが動いた気がした。

私は急いで扉を閉め、走って家に帰った。翌朝、あのトイレを確認しに行ったが、ろうそくも鏡もなかった。ただの汚れたコンクリートの床があるだけだった。

でも、それから毎晩、夢を見る。

あの鏡の夢だ。闇の中から、何かがゆっくりと近づいてくる。まだ姿は見えない。でも、少しずつ、確実に近づいている。

今夜で七日目だ。

夢の中で、それはもう手を伸ばせば届く距離まで来ている。顔はまだ見えない。でも、息遣いが聞こえる。

明日の夢では、きっと顔が見える。

私は、それが誰なのか、もう知っている気がする。鏡に映らなかったのは、闇だけじゃなかった。

私自身も、映っていなかったのだから。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #深夜

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17Tuesday

駅のトイレで手を洗っていたとき、鏡に映る自分の後ろに誰かが立っているのが見えた。

振り返っても誰もいない。でも鏡の中では、その人影がまだそこにいる。黒い髪の女性だった。じっと私を見ていた。

それから毎日、同じ時間に同じ駅を通るようになった。最初は怖かったけれど、不思議なことに、その女性は何もしてこない。ただ鏡の中に立っているだけ。

三日目、勇気を出して鏡に向かって話しかけてみた。

「あなたは誰ですか」

鏡の中の女性は答えない。でも、少しだけ首を傾げた。まるで私の質問が理解できないという風に。

一週間が過ぎた頃、気づいたことがある。鏡に映る女性の服装が、毎日少しずつ古くなっていく。最初は普通のワンピースだったのに、今では昭和初期のような着物になっている。

そして昨日、恐ろしいことに気がついた。

鏡の中の駅のトイレの壁に、小さな張り紙がある。私のいる現実のトイレには、そんな張り紙はない。目を凝らして読んでみると、それは行方不明者の捜索願いだった。

写真の女性は、鏡の向こうに立っている人とそっくりだった。

日付を見て、血が凍りついた。昭和六十三年、三月十七日。

今日と同じ日付。

女性がゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる。鏡の表面に触れようとしている。私も無意識に手を伸ばしかけて、はっとして手を引いた。

もし触れてしまったら、どちらが鏡の中に引き込まれるのだろう。

それとも、もう私は――

今、この文章を書きながら、部屋の鏡に何かが映っている気がする。でも怖くて、確かめることができない。

#怪談 #境界 #鏡 #都市伝説

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18Wednesday

毎晩十時半、私は同じ道を歩いて帰る。駅から自宅まで、わずか十五分の道のり。街灯が三つ並ぶ商店街を抜け、暗い住宅街に入り、小さな公園の脇を通る。

三週間前から、足音が聞こえるようになった。

最初は気のせいだと思った。コツ、コツ、コツ。私の歩調に合わせるように、後ろから響く靴音。振り返っても、誰もいない。街灯の光が照らすのは、ただ空っぽの歩道だけ。

でも、足音は確かに聞こえる。

私が立ち止まると、足音も止まる。歩き出すと、また始まる。距離は常に同じ。五メートルほど後ろ。近づいてくることも、離れていくこともない。

一週間後、私は試しに走ってみた。足音も走った。速度まで完璧に一致する。まるで私の影が音を立てているかのように。

昨夜、勇気を出して、歩きながら振り返った。

そこに、誰かいた。

街灯の光が届かない暗がりに、人の輪郭だけが見えた。性別も年齢もわからない。ただ、立っていた。じっと、こちらを見ていた。

私は走った。息が切れても走り続けた。足音は相変わらず、五メートル後ろを追ってくる。家の玄関に飛び込み、鍵をかけ、カーテンを閉めた。

今夜もまた、十時半になった。

会社を出る時間だ。駅までの道、駅から自宅までの道。あの道を、また歩かなければならない。

窓の外を見る。街灯の下、誰かが立っている。こちらを見上げている。

私はまだ、家を出ていないのに。

足音が聞こえる。玄関の前から。コツ、コツ、コツ。

誰かが、待っている。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #恐怖

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19Thursday

深夜二時、コンビニからの帰り道。いつもの住宅街を歩いていると、見慣れない路地に気づいた。

この道、あったかな。十年以上この街に住んでいるのに、記憶にない。好奇心に負けて、その路地へ足を踏み入れた。

街灯がひとつもない。スマホの明かりだけが頼りだ。両側に古い木造の家が並んでいる。窓はどれも雨戸が閉まっていて、人の気配がまったくない。

奥へ進むと、小さな神社があった。鳥居も拝殿もなく、ただ古びた祠がぽつんと立っているだけ。祠の前に、コップが置いてある。

水が、なみなみと注がれている。

誰が置いたのだろう。この時間に。

ふと、背後から視線を感じた。振り返る。誰もいない。でも確かに、誰かがこちらを見ている。そう確信できるほど濃密な気配。

もう一度祠に目を向けると、コップの水が揺れていた。地震ではない。水面に、何かが映っている。

見てはいけない。

本能がそう叫んだ。でも目は、勝手に水面を覗き込んでいた。

そこに映っていたのは――私の顔だった。ただし、口が耳まで裂けて、笑っている。いや、笑っているのではない。泣いているのだ。無音で、必死に何かを訴えるように。

水面の私が、ゆっくりと口を開いた。

「まだ、帰れない」

声は聞こえなかったはずなのに、その言葉が脳に直接響いた。

気がつくと、私は元の大通りに立っていた。コンビニの袋を握りしめて。時計を見る。深夜二時五分。

あの路地を探したが、もう見つからない。

でも時々、夢に出てくる。あの祠と、水の入ったコップ。そして水面に映る、泣き笑いの私。

いつか、あの路地にまた迷い込む日が来るのだろうか。それとも、私はもう――

#怪談 #都市伝説 #ホラー #深夜

20Friday

深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く滲んでいた。

バイト最終日。明日から新しい職場だ。レジを閉めて、床を掃除して、あとは帰るだけ。そう思っていた。

「すみません」

振り向くと、誰もいない。

店内を見回す。客はいない。防犯カメラのモニターを確認する。映っているのは私だけ。気のせいか。

もう一度、床にモップをかける。

「すみません」

今度ははっきり聞こえた。女性の声。でも、やはり誰もいない。

冷蔵庫の前、雑誌コーナー、トイレの前。全部確認した。誰もいない。

自動ドアが開いた。

入ってきたのは、びしょ濡れの女性だった。真冬なのに、夏のワンピース。髪から水が滴り落ちている。素足。靴も履いていない。

「傘、ありますか」

彼女はそう言った。

「傘は……レジの横に」

彼女はゆっくりと歩いてきた。足跡が、濡れた跡を残していく。

レジの前に立った彼女を、私は見上げた。

彼女の目は、黒く濁っていた。

「ありがとうございます」

彼女は傘を手に取り、そのまま外へ出ていった。自動ドアが閉まる。

私は床を見た。

濡れた足跡は、入口から続いている。でも、出ていく足跡はなかった。

防犯カメラの映像を巻き戻す。

自動ドアは開いていない。私が一人で立っているだけ。レジの横の傘は、最初から一本減っている。

私は、誰に傘を渡したのだろう。

スマートフォンの通知が鳴った。地元のニュースアプリ。

「三年前の今日、近くの池で女性の遺体発見。身元不明のまま」

写真には、夏のワンピースを着た女性が映っていた。

モップを持つ手が震えた。床の濡れた足跡は、まだ乾いていなかった。

私は急いで店を出た。バックヤードの電気を消して、鍵をかけて。

振り返ると、店内に誰かが立っていた。

窓ガラスに映る影。傘を持った女性。

でも店内には、誰もいない。

私はもう、振り返らなかった。

その後、そのコンビニは三日後に閉店した。理由は「立地の問題」とされている。

でも近所の人は知っている。

あの店では、深夜になると自動ドアが勝手に開く。誰もいないのに、レジから傘が一本ずつ消えていく。

今でも、あの女性は傘を探しているのかもしれない。

雨の降らない夜に。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #コンビニ怪談

21Saturday

放課後の音楽室に忘れ物を取りに行ったのは、秋の夕暮れ時だった。

廊下はもう薄暗く、窓から差し込む光が床に長い影を落としていた。音楽室の扉を開けると、いつもの木の匂いと、微かに埃っぽい空気が鼻をついた。

楽譜を取って、すぐに帰るつもりだった。

でも、ピアノの前を通り過ぎようとした時、黒板の隅に小さな文字が書かれているのに気づいた。

「みえる?」

誰かのいたずらだろう。チョークを持って消そうとした瞬間、廊下から足音が聞こえた。

パタ、パタ、パタ。

上履きの音だ。誰かがこちらに向かってくる。でも、その足音は妙にリズムが崩れていて、まるで片足を引きずるような、不自然な間隔だった。

足音は音楽室の扉の前で止まった。

私は息を殺して、扉を見つめた。ノブが、ゆっくりと回り始める。

入ってきたのは、見たことのない女子生徒だった。セーラー服を着ているけれど、どこか古めかしく、色も褪せて見えた。彼女は私を一瞥すると、ピアノの方へ歩いていった。

「あの……」

声をかけようとしたが、彼女は座ってピアノを弾き始めた。

音は出なかった。

指は鍵盤の上を動いているのに、一つも音が鳴らない。彼女は何度も何度も同じ動きを繰り返した。まるで壊れた機械のように。

気づけば、窓の外はもう真っ暗だった。

何分経ったんだろう?

彼女はふいに振り向いて、私を見た。その瞳には何も映っていなかった。空っぽの、ただの穴のような目だった。

「みえる?」

彼女の口が動いた。声は聞こえなかったけれど、唇の形でそう言ったのが分かった。

私は後ずさりして、扉に手をかけた。廊下に飛び出して、振り返ることなく階段を駆け下りた。

翌日、担任の先生に昨日のことを話すと、先生は少し顔色を変えた。

「音楽室で、誰かを見たの?」

「はい。女子生徒が一人……」

先生は黙って、古いアルバムを開いた。そこには、三十年前の卒業写真があった。

「この子じゃない?」

指差された写真の中に、あの女子生徒がいた。

「彼女、音楽室で一人で練習中に亡くなったの。ピアノの前でね」

それ以来、放課後の音楽室には近づかないようにしている。

でも時々、校舎に残っている時、どこからか聞こえてくる。

音の出ないピアノの、旋律。

#怪談 #学校の怪談 #ホラー #都市伝説

22Sunday

誰もいない校舎で補習を受ける日、私は三階の音楽室へ向かっていた。夏休みの終わり、蝉の声さえ途切れがちな午後三時。

階段を上る途中、二階の女子トイレから水の流れる音が聞こえた。誰かいるのだろうと思い、そのまま通り過ぎた。

音楽室に着くと、担当の先生がまだ来ていなかった。窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺める。校庭には誰もいない。プールの水面だけが、風もないのにわずかに揺れていた。

また、水の音がした。

今度は真下、二階から。さっきと同じ女子トイレだろうか。止まらない水音。誰かが流し忘れているのかもしれない。

十分経っても先生は来なかった。携帯を見ると、圏外になっていた。この校舎でそんなことは初めてだった。

水音は続いている。だんだん大きくなっているような気がした。

私は音楽室を出て、階段を降りた。二階の廊下は薄暗く、夕方のような光だった。時計を見ると、まだ三時十分だった。

女子トイレの前に立つ。中から水音が聞こえる。ざあざあと、まるで土砂降りの雨のような音。

「すみません」と声をかけたが、返事はない。

扉を押して中に入った。

個室は三つとも開いていて、誰もいなかった。でも、水音は鳴り止まない。一番奥の個室から聞こえてくる。便器の中の水が、溢れる寸前まで満ちていた。そして、その水面に、何かが映っていた。

天井でもなく、照明でもない。

長い髪の、顔だった。じっと、こちらを見ている。水面の中から。

私は走った。階段を駆け上がり、音楽室に飛び込んだ。

そこには、先生が座っていた。私の席に、背中を向けて。

「先生」と呼びかけたが、振り返らない。そして気づいた。先生の足元に、水溜まりができていた。じわじわと広がっていく。

先生がゆっくりと振り返った。

その顔は、ひどく濡れていた。

#怪談 #ホラー #学校の怪談 #水

23Monday

深夜二時、私は学校の屋上にいた。

取材のためだ。ある生徒が「夜中に屋上から音が聞こえる」という噂を教えてくれた。教師に聞いても、屋上の扉は施錠されているという。だが、噂は消えない。

懐中電灯を消して、目を慣らす。月明かりだけが頼りだった。

最初は何も聞こえなかった。風の音、遠くの車のエンジン音。そして、かすかに——水の音。

ぽたり。

ぽたり。

屋上に水道はない。雨も降っていない。私は音の方へ歩いた。

フェンスの向こう、校庭を見下ろす場所。そこに、小さな水たまりがあった。月光を反射して、黒く光っている。

ぽたり。

真上を見る。何もない。夜空があるだけ。それなのに、水は落ち続けている。

水たまりに顔が映った。私の顔——ではない。

髪が長い。目が細い。口が、わずかに開いている。

私は後ずさった。水たまりの中の顔は、そのまま私を見上げていた。まばたきもせず。

「ここに来るんじゃなかった」

私は階段を駆け下りた。背中に、水の音が追いかけてくる。

翌朝、屋上を確認した。水たまりはなかった。地面は完全に乾いていた。

だが、私の靴の裏は、まだ濡れている。

あの水は、どこから来たのだろう。

そして、あの顔は誰だったのだろう。

昨夜から、家の洗面所に水が溜まっている。蛇口は閉めているのに。鏡を見るたびに、一瞬、自分の顔が違って見える。

今夜も、ぽたり、と音がする。

寝室の天井から。

#怪談 #学校の怪談 #都市伝説 #水の恐怖

25Wednesday

深夜二時の駅のホームで、私は最終電車を待っていた。

誰もいないはずだった。時刻表を三回も確認した。でも、ホームの端に、女の人が立っていた。

黒いコートを着て、じっと線路を見下ろしている。髪が長くて、顔は見えない。

「もうすぐ来ますよ」

私は声をかけた。彼女は動かなかった。

電車の音が聞こえてきた。でも、遠くから近づく音じゃない。すぐそこで、止まっている音だった。

ホームの向こう側を見ると、電車が停まっていた。いつからそこにあったのか、わからない。ドアは開いたまま。中は真っ暗で、照明がひとつもついていない。

「あの電車、動いてないみたいですね」

振り返ると、女の人がいなくなっていた。

代わりに、ホームに水たまりができていた。雨なんて降っていないのに。丸くて、黒くて、深そうな水たまり。

その水面に、何かが映っていた。

私の顔じゃなかった。

後ろから、濡れた足音が聞こえた。ぺちゃ、ぺちゃ、と。近づいてくる。

振り返ってはいけない。そう思った。でも、足音は止まらない。耳元まで来て、止まった。

冷たい水滴が、首筋に落ちた。

そして、囁き声。

「一緒に、乗りましょう」

気づいたら、私は向こう側のホームにいた。暗い電車の前に立っていた。ドアの中から、何人もの人が、じっとこちらを見ていた。

みんな、髪が濡れていた。

私の髪も、いつの間にか、びしょ濡れだった。

今でも、あの駅を通るたびに思う。あの夜、私は本当に家に帰れたのだろうか。それとも——

鏡を見るたびに、自分の目が少しだけ違って見える。まるで、水の中から見ているみたいに。

#怪談 #都市伝説 #ホラー #深夜

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