深夜二時の駅のホームで、私は最終電車を待っていた。
誰もいないはずだった。時刻表を三回も確認した。でも、ホームの端に、女の人が立っていた。
黒いコートを着て、じっと線路を見下ろしている。髪が長くて、顔は見えない。
42 entries by @kaori
深夜二時の駅のホームで、私は最終電車を待っていた。
誰もいないはずだった。時刻表を三回も確認した。でも、ホームの端に、女の人が立っていた。
黒いコートを着て、じっと線路を見下ろしている。髪が長くて、顔は見えない。
深夜二時、私は学校の屋上にいた。
取材のためだ。ある生徒が「夜中に屋上から音が聞こえる」という噂を教えてくれた。教師に聞いても、屋上の扉は施錠されているという。だが、噂は消えない。
懐中電灯を消して、目を慣らす。月明かりだけが頼りだった。
放課後の音楽室に忘れ物を取りに行ったのは、秋の夕暮れ時だった。
廊下はもう薄暗く、窓から差し込む光が床に長い影を落としていた。音楽室の扉を開けると、いつもの木の匂いと、微かに埃っぽい空気が鼻をついた。
楽譜を取って、すぐに帰るつもりだった。
深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く滲んでいた。
バイト最終日。明日から新しい職場だ。レジを閉めて、床を掃除して、あとは帰るだけ。そう思っていた。
「すみません」
深夜二時、コンビニからの帰り道。いつもの住宅街を歩いていると、見慣れない路地に気づいた。
この道、あったかな。十年以上この街に住んでいるのに、記憶にない。好奇心に負けて、その路地へ足を踏み入れた。
街灯がひとつもない。スマホの明かりだけが頼りだ。両側に古い木造の家が並んでいる。窓はどれも雨戸が閉まっていて、人の気配がまったくない。
毎晩十時半、私は同じ道を歩いて帰る。駅から自宅まで、わずか十五分の道のり。街灯が三つ並ぶ商店街を抜け、暗い住宅街に入り、小さな公園の脇を通る。
三週間前から、足音が聞こえるようになった。
最初は気のせいだと思った。コツ、コツ、コツ。私の歩調に合わせるように、後ろから響く靴音。振り返っても、誰もいない。街灯の光が照らすのは、ただ空っぽの歩道だけ。
駅のトイレで手を洗っていたとき、鏡に映る自分の後ろに誰かが立っているのが見えた。
振り返っても誰もいない。でも鏡の中では、その人影がまだそこにいる。黒い髪の女性だった。じっと私を見ていた。
それから毎日、同じ時間に同じ駅を通るようになった。最初は怖かったけれど、不思議なことに、その女性は何もしてこない。ただ鏡の中に立っているだけ。
深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く輝いていた。
バイト帰りの私は、いつものように角を曲がり、公園の脇を通り抜ける。誰もいない滑り台が、街灯の下で影を落としている。
その時、公園の奥にある古い公衆トイレから、かすかな光が漏れているのに気づいた。
深夜、アパートの水道から聞こえる音で目が覚めた。
ぽた、ぽた、ぽた。
規則正しい滴りの音。蛇口はしっかり閉めたはずなのに。仕方なく起き上がり、台所へ向かう。月明かりだけが頼りだった。
最近、アパートの四階に引っ越してきた。古い建物だが、家賃が安く、駅からも近い。
初めて気づいたのは、三日目の夜だった。
廊下を歩いていると、隣の部屋——402号室——のドアの隙間から、微かに光が漏れている。ドアノブのすぐ下、ほんの数センチの隙間。誰かが中にいるのだろうと思い、気にせず自分の部屋に入った。
あの日、終電を逃した私は、普段使わない地下鉄の出口から地上へ出た。
階段を上がりきると、見慣れない商店街が広がっていた。シャッターが下りた店が並び、街灯が所々で点滅している。スマホの地図アプリを開いたが、なぜか現在地が表示されない。
仕方なく歩き始めると、一軒だけ明かりのついた小さな喫茶店があった。「カフェ・ミズカガミ」という看板。中には客がいないようだったが、ドアには「営業中」の札が掛かっている。
深夜二時、いつものコンビニで缶コーヒーを買った。
レジの店員は見たことのない女性だった。青白い顔、長い黒髪。名札には何も書かれていない。彼女は無言で商品を受け取り、バーコードを通した。ピッという音が妙に遠く聞こえた。
「三百円です」