深夜二時、コンビニの自動ドアが開く音がした。
私はレジの奥で棚卸しをしていた。客は誰もいないはずだった。振り向くと、入口には誰もいない。ドアはゆっくりと閉まっていく。
センサーの誤作動だろうと思った。
26 entries by @kaori
深夜二時、コンビニの自動ドアが開く音がした。
私はレジの奥で棚卸しをしていた。客は誰もいないはずだった。振り向くと、入口には誰もいない。ドアはゆっくりと閉まっていく。
センサーの誤作動だろうと思った。
深夜二時、私は例の電車に乗った。
最終電車が終わった後、この路線にはもう一本だけ列車が走る。時刻表には載っていない。駅員に聞いても知らないと言う。それでも、ホームに立って待っていれば、必ず来る。
車内は薄暗く、蛍光灯が規則正しく明滅している。乗客は三人。向かいの座席に座る女性は、ずっと窓の外を見つめている。彼女の視線の先には何もない。真っ暗な闇だけ。
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十五年ぶりに故郷へ帰った時、駅前の風景はほとんど変わっていなかった。けれど、あの古い公衆電話ボックスだけは、まだそこにあった。
小学生の頃、私たちの間で噂されていた話がある。「夜の十一時四十四分に、あの電話ボックスから家に電話をかけると、過去の自分が出る」
深夜二時、湯川アパートの三階廊下。
電球は切れかけていた。ジリジリ、と不規則に光っては消える。私は最後のゴミ袋を引きずりながら、ゴミ捨て場へと向かった。
引っ越してきて三週間。このアパートの住人にまだ会ったことがない。隣の部屋も、上の階も、誰がいるのか分からない。管理人は「みんな夜勤が多いから」と笑った。
階段の数を数えてはいけない。それは小学校三年の時、転校生の山田くんが教えてくれたことだった。
「なんで?」
「数えると、変わるから」
階段の踊り場で、彼女は毎日待っている。
通学路の途中にある古い団地。昭和四十年代の建物で、住人のほとんどは高齢者だ。エレベーターはなく、薄暗い階段を上らなければならない。
私が毎朝その前を通るのは八時半。彼女がベランダに現れるのも、いつも同じ時間だ。
駅までの帰り道、いつもより遅くなってしまった。午後十時を回ると、この住宅街は街灯も少なく、人通りもまばらになる。
角を曲がると、見覚えのない路地が目に入った。こんな道、あっただろうか。毎日通っているはずなのに。でも確かに、この路地を抜ければ駅まで五分は短縮できる。
足を踏み入れると、空気が変わった気がした。湿った、古い匂い。路地の奥は街灯が届かず、闇が深い。
雨の日は、いつもこの道を通らないことにしている。
けれど今日に限って、定期の路線バスが運休していた。迂回路を使うしかない。傘を差し直して、私は薄暗い住宅街へと足を踏み入れた。
細い路地が入り組んでいる。古びた木造の家々が立ち並び、人の気配はない。雨音だけが、やけに大きく耳に届く。
深夜二時、スマホの明かりだけが部屋を照らしていた。
SNSを眺めていると、フォローしていない人からメッセージが届いた。「お願いです。読まないでください」
意味が分からず、そのアカウントのページを開こうとした瞬間、スマホが一瞬フリーズした。画面に映ったのは、自分の部屋。今、この瞬間の。
夜の図書館で残業していると、三階の古い書庫から足音が聞こえてくる。
私は司書として、この図書館に五年勤めている。週末の夜勤が回ってくるのは月に二度ほどだ。静かな館内で書籍の整理や修繕をするのは嫌いではない。誰もいない空間には独特の落ち着きがある。
しかし、今夜は何かが違う。
あの階段は、いつも誰かが通っている。
北校舎の裏、誰も使わない非常階段。放課後、そこを通りかかると、必ず足音が聞こえる。軽い、女の子の足音。でも、見上げても誰もいない。
最初は気のせいだと思った。風の音か、自分の足音の反響かと。でも、立ち止まると音も止まる。歩き出すと、また同じリズムで上から降りてくる。
深夜零時を回って、アパートの廊下を歩いていた。階段の踊り場に差し掛かると、微かに水音が聞こえた。滴る音。規則的で、少しずつ近づいてくる。
足を止めた。
音は止まった。