あの日、終電を逃した私は、普段使わない地下鉄の出口から地上へ出た。
階段を上がりきると、見慣れない商店街が広がっていた。シャッターが下りた店が並び、街灯が所々で点滅している。スマホの地図アプリを開いたが、なぜか現在地が表示されない。
仕方なく歩き始めると、一軒だけ明かりのついた小さな喫茶店があった。「カフェ・ミズカガミ」という看板。中には客がいないようだったが、ドアには「営業中」の札が掛かっている。
49 entries by @kaori
あの日、終電を逃した私は、普段使わない地下鉄の出口から地上へ出た。
階段を上がりきると、見慣れない商店街が広がっていた。シャッターが下りた店が並び、街灯が所々で点滅している。スマホの地図アプリを開いたが、なぜか現在地が表示されない。
仕方なく歩き始めると、一軒だけ明かりのついた小さな喫茶店があった。「カフェ・ミズカガミ」という看板。中には客がいないようだったが、ドアには「営業中」の札が掛かっている。
深夜二時、いつものコンビニで缶コーヒーを買った。
レジの店員は見たことのない女性だった。青白い顔、長い黒髪。名札には何も書かれていない。彼女は無言で商品を受け取り、バーコードを通した。ピッという音が妙に遠く聞こえた。
「三百円です」
深夜二時、私は目を覚ました。喉が渇いていた。
台所へ向かう途中、廊下の窓から外を見ると、隣のマンションの一室に明かりが灯っていた。四階の、いつも暗い部屋だ。
窓際に人影が見えた。長い髪の女性が、じっと動かずこちらを向いている。いや、
深夜二時、私は古いアパートの階段を上っていた。三階に住む祖母の部屋へ向かう途中、二階と三階の間の踊り場で足を止めた。
そこに、小さな窓がある。
昼間は気にも留めなかったその窓から、今夜は微かな光が漏れている。月明かりだろうか。近づいてみると、窓の向こうには何もない。ただの壁だ。このアパートの構造上、窓の外側には隣の建物の壁しかないはずだった。
雨上がりの帰り道、いつも同じ水溜まりがある。商店街の角を曲がったところ、少し窪んだアスファルトに溜まる浅い水。
最初に気づいたのは先週の木曜日だった。
水溜まりを跨ぐとき、何気なく見下ろした。そこに映っているのは曇り空と私の姿。でも、一瞬だけ、私の隣に誰かが立っていた気がした。
三週間前から、夜中の三時に必ず目が覚める。
最初は気のせいだと思っていた。でも毎晩、ちょうど三時になると何かに引っ張られるように意識が浮上する。真っ暗な部屋の中で、私は天井を見つめる。
そして、音が聞こえる。
深夜二時、コンビニの自動ドアが開く音がした。
私はレジの奥で棚卸しをしていた。客は誰もいないはずだった。振り向くと、入口には誰もいない。ドアはゆっくりと閉まっていく。
センサーの誤作動だろうと思った。
深夜二時、私は例の電車に乗った。
最終電車が終わった後、この路線にはもう一本だけ列車が走る。時刻表には載っていない。駅員に聞いても知らないと言う。それでも、ホームに立って待っていれば、必ず来る。
車内は薄暗く、蛍光灯が規則正しく明滅している。乗客は三人。向かいの座席に座る女性は、ずっと窓の外を見つめている。彼女の視線の先には何もない。真っ暗な闇だけ。
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十五年ぶりに故郷へ帰った時、駅前の風景はほとんど変わっていなかった。けれど、あの古い公衆電話ボックスだけは、まだそこにあった。
小学生の頃、私たちの間で噂されていた話がある。「夜の十一時四十四分に、あの電話ボックスから家に電話をかけると、過去の自分が出る」
深夜二時、湯川アパートの三階廊下。
電球は切れかけていた。ジリジリ、と不規則に光っては消える。私は最後のゴミ袋を引きずりながら、ゴミ捨て場へと向かった。
引っ越してきて三週間。このアパートの住人にまだ会ったことがない。隣の部屋も、上の階も、誰がいるのか分からない。管理人は「みんな夜勤が多いから」と笑った。
合わせ鏡の教室
夜の学校は、昼間とはまったく違う顔を持っている。
私が教育実習で配属された古い小学校には、妙な言い伝えがあった。3階の音楽室で夜に合わせ鏡をすると、「もう一人の自分」が現れるという。
階段の数を数えてはいけない。それは小学校三年の時、転校生の山田くんが教えてくれたことだった。
「なんで?」
「数えると、変わるから」