雨の日は、いつもこの道を通らないことにしている。
けれど今日に限って、定期の路線バスが運休していた。迂回路を使うしかない。傘を差し直して、私は薄暗い住宅街へと足を踏み入れた。
細い路地が入り組んでいる。古びた木造の家々が立ち並び、人の気配はない。雨音だけが、やけに大きく耳に届く。
46 entries by @kaori
雨の日は、いつもこの道を通らないことにしている。
けれど今日に限って、定期の路線バスが運休していた。迂回路を使うしかない。傘を差し直して、私は薄暗い住宅街へと足を踏み入れた。
細い路地が入り組んでいる。古びた木造の家々が立ち並び、人の気配はない。雨音だけが、やけに大きく耳に届く。
深夜二時、スマホの明かりだけが部屋を照らしていた。
SNSを眺めていると、フォローしていない人からメッセージが届いた。「お願いです。読まないでください」
意味が分からず、そのアカウントのページを開こうとした瞬間、スマホが一瞬フリーズした。画面に映ったのは、自分の部屋。今、この瞬間の。
放課後の四時半、私は職員室で採点をしていた。
窓の外はすでに薄闇に包まれている。冬の日は短い。他の教師たちは既に帰宅していて、校舎はしんと静まり返っている。
ふと、廊下から子どもの足音が聞こえた。
あの階段は、いつも誰かが通っている。
北校舎の裏、誰も使わない非常階段。放課後、そこを通りかかると、必ず足音が聞こえる。軽い、女の子の足音。でも、見上げても誰もいない。
最初は気のせいだと思った。風の音か、自分の足音の反響かと。でも、立ち止まると音も止まる。歩き出すと、また同じリズムで上から降りてくる。
深夜零時を回って、アパートの廊下を歩いていた。階段の踊り場に差し掛かると、微かに水音が聞こえた。滴る音。規則的で、少しずつ近づいてくる。
足を止めた。
音は止まった。
雨の音が窓を叩いている。
夜の図書館は静かだ。閉館時間はとうに過ぎているが、私は論文を仕上げなければならなかった。司書の田村さんが特別に鍵を貸してくれた。「十二時までには必ず出てくださいね」と念を押されたことを思い出す。
時計を見る。十一時四十五分。あと十五分だ。
廊下の窓
教室棟の三階、階段と体育館を結ぶ廊下に、あの窓がある。
私が気づいたのは、夏休み明けの朝だった。いつもと同じ道を歩いていると、廊下の突き当たりに見慣れない窓があった。磨りガラスで、ちょうど目の高さにある。不思議なのは、その窓の向こうに何もないことだ。窓の外側は校庭のはずなのに、磨りガラス越しにぼんやりと見えるのは灰色の空だけ。校庭も校舎も、何も映らない。
窓の向こう側
子供の頃から、窓に近づくのが怖かった。
理由は分からない。ただ、夜の窓には何かがいると思っていた。カーテンを閉めても、その向こう側に何かが立っているような気がして、いつも布団を頭まで被って寝ていた。
終電が出た後の駅は、いつもと違う顔を見せる。
蛍光灯の半分が消え、エスカレーターが止まり、清掃員の足音だけが響く。私はそんな時間帯に駅で働いている。
ある夜、最終点検で地下二階のホームを歩いていると、ベンチに女性が座っていた。
夜の図書館で、私は卒論のために閉館間際まで残っていた。三階の奥の書架、誰も来ない古い資料室。窓の外は真っ暗で、蛍光灯の光だけが頼りだった。
ページをめくる音だけが静寂を破る。その時、廊下の向こうから足音が聞こえた。
パタパタと裸足で歩く音。
最終電車の窓
終電のドアが閉まる直前、彼女は飛び乗った。車内は空いていて、座席に数人の乗客がまばらに座っているだけだった。疲れた会社員、居眠りする学生、スマホを見つめる若者。誰も彼女を見なかった。
窓に映る自分の顔を見ながら、彼女は今日の出来事を思い返していた。残業、上司の嫌味、コンビニで買った冷めた弁当。いつもと変わらない一日。
職員室の灯りが落ちるのは、いつも午後十時を過ぎたころだった。
私が夜間警備のアルバイトを始めてから三週間。この学校にはいくつか妙な決まりがあった。二階の第三理科室には入らないこと。三階の女子トイレは夜八時以降使わないこと。そして、廊下で足音が聞こえても振り向かないこと。
「慣れればどうってことないよ」