廊下の窓
教室棟の三階、階段と体育館を結ぶ廊下に、あの窓がある。
私が気づいたのは、夏休み明けの朝だった。いつもと同じ道を歩いていると、廊下の突き当たりに見慣れない窓があった。磨りガラスで、ちょうど目の高さにある。不思議なのは、その窓の向こうに何もないことだ。窓の外側は校庭のはずなのに、磨りガラス越しにぼんやりと見えるのは灰色の空だけ。校庭も校舎も、何も映らない。
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廊下の窓
教室棟の三階、階段と体育館を結ぶ廊下に、あの窓がある。
私が気づいたのは、夏休み明けの朝だった。いつもと同じ道を歩いていると、廊下の突き当たりに見慣れない窓があった。磨りガラスで、ちょうど目の高さにある。不思議なのは、その窓の向こうに何もないことだ。窓の外側は校庭のはずなのに、磨りガラス越しにぼんやりと見えるのは灰色の空だけ。校庭も校舎も、何も映らない。
窓の向こう側
子供の頃から、窓に近づくのが怖かった。
理由は分からない。ただ、夜の窓には何かがいると思っていた。カーテンを閉めても、その向こう側に何かが立っているような気がして、いつも布団を頭まで被って寝ていた。
終電が出た後の駅は、いつもと違う顔を見せる。
蛍光灯の半分が消え、エスカレーターが止まり、清掃員の足音だけが響く。私はそんな時間帯に駅で働いている。
ある夜、最終点検で地下二階のホームを歩いていると、ベンチに女性が座っていた。
夜の図書館で、私は卒論のために閉館間際まで残っていた。三階の奥の書架、誰も来ない古い資料室。窓の外は真っ暗で、蛍光灯の光だけが頼りだった。
ページをめくる音だけが静寂を破る。その時、廊下の向こうから足音が聞こえた。
パタパタと裸足で歩く音。
最終電車の窓
終電のドアが閉まる直前、彼女は飛び乗った。車内は空いていて、座席に数人の乗客がまばらに座っているだけだった。疲れた会社員、居眠りする学生、スマホを見つめる若者。誰も彼女を見なかった。
窓に映る自分の顔を見ながら、彼女は今日の出来事を思い返していた。残業、上司の嫌味、コンビニで買った冷めた弁当。いつもと変わらない一日。
職員室の灯りが落ちるのは、いつも午後十時を過ぎたころだった。
私が夜間警備のアルバイトを始めてから三週間。この学校にはいくつか妙な決まりがあった。二階の第三理科室には入らないこと。三階の女子トイレは夜八時以降使わないこと。そして、廊下で足音が聞こえても振り向かないこと。
「慣れればどうってことないよ」
深夜二時、図書館の自習室で私は一人だった。期末試験が近く、誰もが帰った後も残って勉強を続けていた。
窓の外は真っ暗で、蛍光灯の明かりだけが白々と室内を照らしている。シャープペンシルの芯が紙を擦る音だけが静寂を破っていた。
ふと、廊下から足音が聞こえた。
授業が終わった後の教室は、いつもよりも静かだった。誰もいないはずなのに、廊下の奥から足音が聞こえる。
パタパタ、パタパタ
私は机の中の忘れ物を取りに来ただけだった。体育館シューズ。それだけのことだった。足音が近づいてくる。
深夜二時。
窓の外は雨だった。アパートの廊下を歩く足音が聞こえる。規則正しく、誰かがゆっくりと階段を上ってくる。
私は鍵を確認した。チェーンもかかっている。
駅の階段は、いつも十三段だった。
毎朝通る駅だから、数えたことなどなかった。けれど、あの日から数えるようになった。
火曜日の朝、いつもより早く家を出た。改札を抜けて、ホームへ続く階段を降りる。足が止まった。
深夜の図書館で、私は一冊の古い日記帳を見つけた。表紙には何も書かれていない。ただ、触れた瞬間に指先が冷たくなった。
中を開くと、几帳面な文字で日付と短い文章が並んでいる。
「今日も彼女を見た。窓の外、三階なのに」
職員室の電気が消えた時刻は、午後六時半だった。
私が最後の生徒を送り出して、一人きりで採点をしていた時のことだ。廊下の蛍光灯だけが、白く光っている。いつものことだと思った。夜の学校は静かで、仕事に集中できる。
だが、その日は違った。