夜の十一時を過ぎた頃、私は駅のホームに一人立っていた。 終電まであと十分。蛍光灯がひとつ、ゆっくりと明滅していた。 反対側のホームに、女が立っていた。 白いワンピース、というわけではない。ごく普通のグレーのコートを着た、どこにでもいそうな女...
#怪談
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夜の十一時を過ぎた頃、私は駅のホームに一人立っていた。 終電まであと十分。蛍光灯がひとつ、ゆっくりと明滅していた。 反対側のホームに、女が立っていた。 白いワンピース、というわけではない。ごく普通のグレーのコートを着た、どこにでもいそうな女...
夏の終わり、田中みずきは終電に乗り損ねた。 駅から家まで、歩いて二十分。慣れた道だ。でも、こんな時間に歩くのは初めてだった。 街灯の光が、アスファルトに細長い影を作る。みずきの後ろに、みずきの影が伸びている。 当たり前のことだ、と思った。...
その夜、残業を終えて会社を出たのは、もう零時を過ぎた頃だった。 駅まで続く商店街は人気ひとけがなく、シャッターの並ぶ通りに自分の足音だけが響いていた。信号が変わるたびに立ち止まる。赤、青、赤、青。誰もいないのに、なぜか信号を守っていた。 途...
梅雨の合間、雨が止んだ夜のことだ。 友人の真奈から電話があったのは、午後十一時を少し回った頃だった。声が妙に平坦で、「鏡を見てはいけない」とだけ言った。それだけ言って、電話は切れた。 冗談だろう、と思いながらも、私はその夜、洗面台の鏡に布を...
放課後、廊下の突き当たりに女の子が立っていた。 同じクラスの橘さんだと思った。後ろ姿で、肩までの黒髪、制服の白いブラウスが西日の中にぼんやりと浮かび上がっていた。窓の外では運動部の掛け声が遠く聞こえていたが、廊下の先はひどく静かだった。放課...
母が入院してから、私は一人で実家に帰ることが多くなった。 築四十年の一軒家は、夜になると独特の静けさを持つ。風が吹くたびに軋む廊下。壁の中で何かが動くような低い音。電球が切れかけて、ときおりジジッと明滅する台所の照明。子供の頃から慣れている...
夕方六時を過ぎた頃、校舎はひっそりと静まり返っていた。 合唱部の練習が終わり、部員たちが帰ったあとで、佐藤理沙は音楽室に楽譜を忘れてきたことに気づいた。音楽室は四階にある。取りに行って、帰るだけ。大した話ではなかった。 昇降口から入ると、廊...
放課後の音楽室は、いつも少しだけ冷たい。 夏でも、そこだけ空気が違う気がして、私は毎日なるべく早く通り過ぎるようにしていた。三年生になってからは係の仕事で、週に一度だけ鍵を借りて楽器の点検をしなければならなかった。 七月の終わり、その日も一...
夜の十一時過ぎ、駅のホームで最終電車を待っていた。 人影はまばらで、蛍光灯がひとつ、奥の方でゆっくりと明滅していた。ベンチに座って、スマートフォンを眺めていると、隣に誰かが腰を下ろした。 気配で気づいた。視線を向けずに、画面越しに確認した。...
深夜二時の駅のホームで、私は最終電車を待っていた。 誰もいないはずだった。時刻表を三回も確認した。でも、ホームの端に、女の人が立っていた。 黒いコートを着て、じっと線路を見下ろしている。髪が長くて、顔は見えない。 「もうすぐ来ますよ」 私は...
深夜二時、私は学校の屋上にいた。 取材のためだ。ある生徒が「夜中に屋上から音が聞こえる」という噂を教えてくれた。教師に聞いても、屋上の扉は施錠されているという。だが、噂は消えない。 懐中電灯を消して、目を慣らす。月明かりだけが頼りだった。...
誰もいない校舎で補習を受ける日、私は三階の音楽室へ向かっていた。夏休みの終わり、蝉の声さえ途切れがちな午後三時。 階段を上る途中、二階の女子トイレから水の流れる音が聞こえた。誰かいるのだろうと思い、そのまま通り過ぎた。 音楽室に着くと、担当...
放課後の音楽室に忘れ物を取りに行ったのは、秋の夕暮れ時だった。 廊下はもう薄暗く、窓から差し込む光が床に長い影を落としていた。音楽室の扉を開けると、いつもの木の匂いと、微かに埃っぽい空気が鼻をついた。 楽譜を取って、すぐに帰るつもりだった。...
深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く滲んでいた。 バイト最終日。明日から新しい職場だ。レジを閉めて、床を掃除して、あとは帰るだけ。そう思っていた。 「すみません」 振り向くと、誰もいない。 店内を見回す。客はいない。防犯カメラのモニターを確認す...
深夜二時、コンビニからの帰り道。いつもの住宅街を歩いていると、見慣れない路地に気づいた。 この道、あったかな。十年以上この街に住んでいるのに、記憶にない。好奇心に負けて、その路地へ足を踏み入れた。 街灯がひとつもない。スマホの明かりだけが頼...
毎晩十時半、私は同じ道を歩いて帰る。駅から自宅まで、わずか十五分の道のり。街灯が三つ並ぶ商店街を抜け、暗い住宅街に入り、小さな公園の脇を通る。 三週間前から、足音が聞こえるようになった。 最初は気のせいだと思った。コツ、コツ、コツ。私の歩調...
駅のトイレで手を洗っていたとき、鏡に映る自分の後ろに誰かが立っているのが見えた。 振り返っても誰もいない。でも鏡の中では、その人影がまだそこにいる。黒い髪の女性だった。じっと私を見ていた。 それから毎日、同じ時間に同じ駅を通るようになった。...
深夜二時、コンビニの蛍光灯が白く輝いていた。 バイト帰りの私は、いつものように角を曲がり、公園の脇を通り抜ける。誰もいない滑り台が、街灯の下で影を落としている。 その時、公園の奥にある古い公衆トイレから、かすかな光が漏れているのに気づいた。...
深夜の補習が終わったのは十時を過ぎていた。校舎に残っているのは私だけのはずだった。 三階の教室を出て、階段を降りようとした時、下の階から足音が聞こえた。 誰かいる。 警備員かもしれない。そう思って立ち止まると、足音も止まった。 私が歩き出す...
深夜、アパートの水道から聞こえる音で目が覚めた。 ぽた、ぽた、ぽた。 規則正しい滴りの音。蛇口はしっかり閉めたはずなのに。仕方なく起き上がり、台所へ向かう。月明かりだけが頼りだった。 蛇口は完全に閉まっていた。でも音は止まない。 ぽた、ぽた...