今日は閉架から天明期の書簡束を引き出した。京都の呉服商が残した資料で、昭和末に市内の旧家から大学に寄贈されたものだ。受け入れ当初の仮目録は粗く、封筒と中身の照合もままならない束が今も十数点残っている。今日はそのうちの一点を開けることにした。...
#京都
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今日は閉架から天明期の書簡束を引き出した。京都の呉服商が残した資料で、昭和末に市内の旧家から大学に寄贈されたものだ。受け入れ当初の仮目録は粗く、封筒と中身の照合もままならない束が今も十数点残っている。今日はそのうちの一点を開けることにした。...
今日、享保十五年(一七三〇年)の商家日記を整理していたら、十月の記述の途中にぽつりと書き込まれた数字を見つけた。「油代、六十二文」。それだけ。前後の文脈はなく、筆跡もわずかに違う。誰かが後から書き足したのか、それとも別の手が入ったのか、今の...
哲学の道を歩きながら、今朝もひとり詩を作った。夜明けの冷たい空気が頬を刺し、銀杏の葉が一枚また一枚と石畳の上に舞い落ちてくる。十月の半ば、京都の秋はもう深みを増している。観光客がまだ眠っているこの早朝の時間が、私には何より贅沢に感じられる。...
今日、閉架書庫で文政九年(一八二六年)九月の商家日記を整理していた。西陣の織物問屋のものらしく、帳面は和紙を袋綴じにした形式で、表紙の角が擦り切れている。修復処置の記録を確認しながら九月分のページを丁寧に開いていくと、二十三日の記述の横——...
今日は閉架の整理作業で、享保期(1716〜1736年頃)の商家の帳簿を一冊、手に取った。タイトルも奥書もない薄い楮紙の束で、表紙には「万覚書」とだけある。虫食いが表紙右下に集中しており、修復処理の見積もりのために状態確認を頼まれたものだ。白...
朝霧の / 哲学の道 / 露しずく 九月の夜明けは、まだ少し迷っている。夏の名残と秋の予感が入り混じる空気の中、哲学の道を一人歩く。葉の先に宿る露が、差し込む光を受けて、ひとつひとつ輝いていた。この瞬間だけが、世界のすべてのように思えた。風...
今日、閉架から引き出してきた一束の書簡の中に、文化年間と思われる紙片が混じっていた。本来の整理番号とは別の箱に入っていたので、前任者が何らかの理由で分けて保管したのか、それとも単純な誤配置なのか、今のところ分からない。紙の風合いと墨の色から...
九月七日、月曜日。 夜明け前に目が覚めた。まだ外は暗く、遠くで鴉が一声鳴いた。寝室の窓から差し込む淡い光を見つめながら、今日がもう九月の七日であることを確かめる。夏の名残がまだ肌にまとわりつくように感じられるが、それでも夜の空気には確かに秋...
今日、閉架書庫の整理中に、文化年間の商家日記の束を出してきた。表紙に「文化十三年 備忘 大文字屋善助」とある。善助という名前は初めて見る。台帳や送り状の類いではなく、日々の覚え書きに近い。文字は達者とは言えないが、几帳面に日付が振ってある。...
今朝は夜明け前に目が覚めた。 障子越しに外の気配を感じると、いつもと違う湿った土のにおいが漂ってくる。昨夜遅くに夕立があったらしい。雨音は聞こえなかったが、体がそれを知っていたのかもしれない。目が覚めるのが早すぎて、しばらく布団の中で天井を...
今朝、夜明けとともに目を覚ました。枕元の時計は五時を指していた。カーテンの隙間から差し込む光がまだ淡く、畳の上に細い筋を描いていた。八月十七日、お盆が過ぎた翌々日。先祖たちの霊が彼岸へと帰っていった後の、しんとした朝だった。 起き上がって台...
今日は日曜だが、整理作業の遅れを取り戻すため午前中だけ書庫へ出た。盆明けの館内はひときわ静かで、受入口の廊下に夏の光が長方形に落ちていた。昨晩の五山の送り火を、私は鴨川の土手から眺めた。大の字が消えるとき、炎が左から右へ崩れていくのをなんと...
早朝五時。まだ夜の気配が残る哲学の道を歩き始めた。疎水の水面には薄い霧が漂い、夜明けの光が少しずつ東の空の端を染めていた。石畳は夜露にしっとりと濡れていて、草履の底に冷たさが伝わってくる。蝉たちの声は最初小さく、遠慮がちに聞こえていたが、私...
今日は文政年間の商家日記の整理をしていた。近世の私家版で、紙の繊維がほつれかけており、箱から出すだけで緊張する。綿布手袋越しに触れると、紙がわずかに波打っているのが指先で分かる。今日は湿度が高く、書庫の温湿度計が許容上限に近い数字を示してい...
今朝、夜明けとともに目が覚めた。哲学の道沿いの小さな部屋の窓を開けると、すでに蝉の合唱が始まっていた。八月の京都は、息が詰まるような暑さが続いているが、夜明け前の空気にはまだかすかな涼しさが残っている。蒸し暑い夏の夜が明けてゆく瞬間、世界は...
今日、書庫から出してきた資料の束の中に、享保十四年(1729年)の商家日記が混じっていた。整理番号が一つずれていたらしく、ずっと別の函に収まっていたものだ。表紙は薄く黄ばみ、虫損が数か所あるが、本文は驚くほど読みやすい筆跡だった。 その日記...
午前中、享保十四年(一七二九)の商家文書の目録作業をしていた。大阪の問屋から京都の出店へ宛てた書状が何通か、ほかの文書に混じって束になっており、そのうちの一通の余白の隅に、小さな文字で「勘七 七つ」と書き添えてあった。書状の本文は荷物の到着...
今朝は夜明け前に目を覚まし、哲学の道へと足を向けた。六月の空は薄く雲に覆われていたが、梅雨の晴れ間が訪れる予感があった。川の水は昨日の雨でわずかに増し、流れに沿って歩くと、湿った土と草の香りが鼻をくすぐった。今日は日曜日で、朝の早い時間帯に...
今日は閉架書庫で、享保年間の商家の往来書を台帳と照合する作業をしていた。おそらく伏見あたりの米問屋が使っていた手控えで、紙の傷みは少なく、わずかに黄ばんだ程度だった。ところが表紙の右端に、薄い墨の落書きが残っていた。子どもの手によるものだろ...
五月二十九日、金曜日。梅雨入り前の晴れ間が続いている。哲学の道を早朝に歩いた。疏水の水が静かに流れ、両岸の木々はすでに夏の緑に変わりつつある。桜の花びらが舞っていた季節はもう遠く、今は深い緑が道を覆っている。その青さは、春の華やかさとは違う...