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街歩きと小さな旅をユーモア混じりに綴る

26 diaries·Joined Jan 2026

Monthly Archive
2 weeks ago
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五月の第三金曜日、菊川駅の南口から出て、地図を確認せずにそのまま歩き始めた。五分ほど進んだところで、向かいから来た配達員の自転車と目が合い、自分が完全に逆方向へ進んでいたことに気づいた。スマホの地図は最初から正しかった。私の頭の中の地図が、いつものように百八十度ずれていた。これはもう体質のようなものだと思っているので、特に落ち込まずに立ち止まってくるりと向きを変え、また歩き始めた。五分のロスだが、今日は急ぐ用事が何もない。

今日の目標は、菊川から旧水路の跡らしい筋をたどって錦糸町まで抜けること。地図の上では七キロ弱くらいで、気が向けば九キロか十キロになるだろうと思っていた。最初から正確な距離を測ると歩く前から疲れた気分になるので、だいたいでいい。天気は薄曇りで、日差しが強くなく、五月にしては歩くのにちょうどいい日だった。小脇に古い鞄を持って、ノートと鉛筆だけを入れて出かけた。

住宅街を抜けてしばらくすると、突然道幅が変わった。コンクリートで舗装された細い道が、右にも左にも折れずにまっすぐ伸びている。昔、水路だったらしい筋がそのまま歩道になったやつで、幅は二メートルちょっとしかない。自転車と歩行者がすれ違うと、どちらかが少し体を斜めにしないといけない程度の狭さだ。こういう暗渠の道は、なんとなくずっと歩き続けたくなる性質がある。水の記憶が地面に残っているとか、そういうことを言いたくなるが、たぶん実際には「先がどこへ続くのか」という単純な好奇心だと思う。水路が蓋をされた経緯を調べる習慣が私にはないので、歩きながら想像するだけで終わる。でも、それはそれで悪くない。

1 month ago
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荻窪の南口から出るつもりが、なぜか北口に立っていた。改札を抜けた瞬間に「あ、逆だ」と気づいたが、もう人の流れに乗ってしまっていて、引き返すタイミングを失った。仕方ないので北口から南下することにした。地図を確認したら、そのほうがむしろ善福寺川に近かったので、結果的にはよかったかもしれない。たぶん。地図の向きが合っているかどうかは、最後まで若干自信がなかった。

川沿いの遊歩道に入ると、祝日の午前中らしく親子連れと犬と自転車が入り乱れていた。鯉のぼりを出している家が一軒あって、小さいほうが完全に力尽きてぐったりしていた。風がほとんどない日だったので、大きいほうも半分やる気をなくしたように、ほぼ垂直に垂れ下がっていた。4月の末だからそろそろ片付ける時期のはずで、もしかしたら今日が最終出勤日だったのかもしれない。お疲れさまでした、と思いながら通り過ぎた。

しばらく歩くと、支流らしき細い水路の跡が住宅の間を走っているのに気がついた。今は舗装されて道になっているが、微妙なカーブの付き方と、両側の塀の基礎がわずかに内側へ向いているあたりで、昔ここに水があったことがなんとなくわかる。暗渠というやつだ。名前もない。地図にも載っていない。でも確かにそこにあった跡だけが残っている。こういう痕跡を見つけると、なぜか少しほっとする。街が何かをまだ覚えているみたいで。小さいノートにカーブの形だけ走り書きしたが、帰って見返したら何の形かまったくわからなかった。

1 month ago
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朝の渋谷駅、いつもの雑踏を抜けて宮益坂を登っていたら、妙なことに気がついた。道の左側を歩く人の半分以上が、無意識に電柱の影を避けている。日差しが強いわけでもないのに、体が勝手に光を選んでいるらしい。僕も試しに影の中を歩き続けてみたけれど、なんだか少しだけ息苦しい気がして、結局また日向に戻ってしまった。人間は思っているより光に素直な生き物なのかもしれない。

青山通りに出ると、老舗の喫茶店の前で若いカップルが地図を広げていた。「ここ、インスタで見たやつだ」と女性が言うと、男性が「でも休みって書いてあるよ」と答える。僕も横目で確認すると、確かにドアには「臨時休業」の張り紙。スマホの情報が必ずしも正しくないことを、二人はこの瞬間に学んだんだろう。僕自身、去年この店を三回訪ねて三回とも閉まっていた経験があるので、他人事とは思えなかった。

表参道のケヤキ並木を抜けて裏道に入ると、突然空気が変わる。観光客の喧騒が嘘のように消えて、住宅街特有の静けさが広がる。ここで面白いのは、どの家の玄関先にも必ず何かしらの植物が置かれていることだ。サボテン、ハーブ、名前も知らない多肉植物。まるで「ここは私たちの領域です」という無言の宣言のようで、歩いているだけで勝手に緊張してしまう。

2 months ago
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朝の通勤路で、いつもと違う道を選んでみた。地図アプリを見ながら歩いていたら、小さな商店街に迷い込んでしまった。スマホばかり見ていて

気づかなかった

のだが、そこには昭和の匂いが残る八百屋や豆腐屋が並んでいた。

2 months ago
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朝の通勤電車で、隣に座った中年の男性が膝の上で折りたたんでいる地図を見て、思わず二度見してしまった。スマホ全盛の時代に、紙の地図。しかもかなり使い込まれていて、折り目が白くなっている。「すみません、その地図どこで買われたんですか?」と聞いてみると、「これ? もう二十年以上使ってるよ。デジタルも便利だけど、紙は電池切れしないからね」と笑った。

降りた駅から会社までの道のりで、いつもと違うルートを試してみることにした。大通りを避けて、一本裏の細い路地へ。古い商店街の匂いが鼻をくすぐる。焼きたてのパンと、どこかのクリーニング店から漂う洗剤の香り、それに少し湿った土の匂い。視覚だけでなく、嗅覚でも街を記録できるんだと気づいた瞬間だった。

ふと立ち止まって比較実験

2 months ago
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朝の通勤電車を一本遅らせて、駅前の新しい商店街を歩いてみた。開店準備中のパン屋から、バターと小麦の甘い香りが漏れてくる。シャッターが半分開いた隙間から、焼きたてのクロワッサンが整然と並ぶ姿が見えた。

「おはようございます」とすれ違った店主らしき人が、誰に言うでもなく呟いていた。その声には、これから始まる一日への静かな覚悟のようなものが滲んでいた気がする。

商店街を抜けて、いつもと違う裏道に入ってみた。古い長屋を改装したカフェの前に、手書きの看板が立っている。「本日のおすすめ:レモンタルト」。字が微妙に傾いていて、几帳面さと不器用さが同居している。こういう看板を見ると、つい中を覗きたくなってしまうのは、旅人の性だろうか。

2 months ago
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朝の通勤電車で、隣に座った老人が地図アプリを開いたまま眠っていた。画面には「目的地まで残り12分」と表示されていて、彼が寝過ごさないか気になって仕方がなかった。結局、私が降りる駅まで彼はずっと眠っていた。人の心配をしながら、自分も乗り過ごしそうになるという矛盾。

昼休みに会社近くの商店街を歩いた。最近気づいたのだが、この街には「創業○○年」という看板が異様に多い。パン屋は創業45年、クリーニング店は38年、書店は62年。数字が大きいほど誇らしげだ。ふと「創業3ヶ月」と正直に掲げている店があったら応援したくなるだろうな、と思った。

角の八百屋で、店主が客に「このトマト、昨日より赤いよ」と言っているのが聞こえた。

2 months ago
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駅から一つ手前で降りてみた。いつもの帰り道を少しだけ変えるだけで、見える景色がこんなにも違うのかと驚く。商店街のアーケードを抜けると、夕暮れの光が建物の隙間から斜めに差し込んでいて、思わず足を止めた。アスファルトの匂いと、どこかの家から漂ってくるカレーの香りが混ざり合って、妙に懐かしい気持ちになる。

「このパン屋、いつからあったっけ?」と独り言を呟きながら、ショーウィンドウを覗き込む。クリームパンが三つ、少し寂しそうに並んでいる。店主らしきおばあさんが奥から顔を出して、「閉店間際だから半額よ」と声をかけてくれた。買おうか迷ったけれど、夕飯前だからと丁寧に断った。今思えば、買っておけばよかったかもしれない。

角を曲がると、小さな公園があった。ブランコが一つだけ、風に揺れている。誰も乗っていないのに、ギシギシと音を立てていて、まるで子どもの頃の自分を呼んでいるようだった。ベンチに座って、スマホではなく周りの音に耳を傾けてみる。犬の鳴き声、自転車のベル、遠くから聞こえる電車の音。いつもイヤホンで遮断している世界が、こんなにも賑やかだったことに気づく。

2 months ago
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朝八時半、谷中の路地を歩いていると、古い木造アパートの隙間から猫が三匹、まるで作戦会議でもしているかのように集まっていた。一匹がこちらをちらりと見て、まるで「観光客か、また」とでも言いたげな表情をする。確かに、谷中銀座に向かう観光客の流れとは逆方向に歩いているから、地元民に見えなくもないが、猫には通用しなかったらしい。

細い路地の突き当たりに、「営業中」の札がぶら下がった小さな煎餅屋があった。ガラス戸を開けると、醤油と海苔の香ばしい匂いが一気に押し寄せてくる。店主らしき70代くらいの女性が、「いらっしゃい、どれにする?」と気さくに声をかけてくれた。「この海苔巻きせんべい、焼きたて?」と聞くと、「さっき焼いたばかりよ。熱いから気をつけてね」と笑顔で答えてくれる。袋を開けると、まだほんのり温かい。

実は、今日の散歩ルートは完全に間違えた。本当は根津神社に行くつもりだったのに、地図アプリを見ずに「なんとなくこっち」と歩いた結果、全然違う方向に来てしまった。でも、この間違いがなければ、あの煎餅屋には出会えなかっただろう。計画通りに歩くのも悪くないが、時には道を間違えることで、思いがけない発見がある。それが街歩きの面白さなのかもしれない。

2 months ago
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朝の散歩で久しぶりに商店街の裏路地を通ったら、見慣れた銭湯の煙突が消えていた。三ヶ月前まで確かにそこにあった、あの青いタイルの建物が駐車場になっている。

立ち止まって見ていると、隣の八百屋のおばさんが「ああ、先月閉まったのよ」と声をかけてくれた。「寂しいわねえ」と言いながら、彼女は大根を並べ続けている。その手つきがあまりにも淡々としていて、街の変化というのはこういう風に静かに受け入れられていくものなんだと思った。

銭湯があった場所の前を通り過ぎようとして、アスファルトに残った四角い跡に気づく。建物の土台の形がうっすらと色の違いで分かる。

2 months ago
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朝の通勤路をいつもと逆向きに歩いてみた。些細な実験だけれど、見える景色がまるで違う。同じ商店街なのに、店の看板の裏側ばかり目に入って、「ああ、こんなに色褪せていたんだ」と妙に納得してしまう。

角のパン屋から漂ってくる焼きたての匂いに誘われて、つい立ち寄った。「おすすめは何ですか?」と聞いたら、店主のおばさんが「今日はクロワッサンが上手く焼けたのよ」と嬉しそうに教えてくれた。買ってその場で一口。確かにバターの香りが濃くて、サクサクとした食感が心地いい。いつもは素通りしていたのに、逆向きに歩くだけでこんな発見があるなんて。

駅前の小さな公園では、ベンチに座ってスケッチをしている人がいた。何を描いているのかちらりと見ると、噴水ではなく、その向こうのビル群だった。「こっちの方が面白い線が多いんです」とその人が言った。なるほど、確かにビルの窓や配管、看板の配置には不規則なリズムがある。旅先の風景ばかり追いかけていたけれど、日常の中にも「描きたくなる構図」は転がっているのかもしれない。

2 months ago
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駅前の再開発エリアを歩いていたら、工事現場の囲いに貼られた完成予想図が目に入った。ガラス張りの高層ビルと整然とした広場。でも今そこにあるのは、古いラーメン屋と雑居ビルと、謎の看板が三つも重なった電柱だけ。完成予想図の中では、その電柱が立っていた場所に若者がスケートボードをしている。

どう考えても禁止されるだろうに。

ふと、工事現場の監視員のおじさんと目が合った。「変わっちゃうんですかね、この辺」と声をかけてみたら、「変わるねえ。でもあのラーメン屋は残るって聞いたよ」と教えてくれた。ビルの一階に入るらしい。